【風来坊の猫の実話】信頼してくれてたんだね。自由気ままなクロが最期の場所に選んだのは
「猫がいてくれるから」がんばれる。救われた。毎日が楽しい…… そんな猫たちとの暮らし、出会いや別れなどの実話を集めた本が話題です。その中から、エピソードをひとつ紹介しましょう。ふらりと出かけて、数日帰らないこともしょっちゅうなオス猫。そんな風来坊な猫と暮らしていた一家の話です。
風来坊のクロ
猫は死にぎわに姿を消す。
これは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。死にぎわの姿を見せない美学のような捉え方をされがちですが、野生では弱った姿を見せるとほかの動物に襲われるので、それを避けるためというのが本当のところだともいわれます。
とはいっても、完全室内飼育が増えた現代では、猫は姿の消しようもないのですが。
30年ほど前までの日本では、飼い猫が自由に外を歩くことが普通にありました。町中で猫を見かけると、「あ、隣の家の飼い猫だ」「この子、田中さん家のタマだな」などとわかったという経験のある人も多いのではないでしょうか。
家を出て歩き回る猫の行動範囲は、実はそう広くないようです。ある調査では、だいたい自分の家の100メートル四方をウロウロしているという結果が出ています。それが平均的な猫の縄張りなのでしょう。その中で、何か異常がないかパトロールしているんですね。
でも、たまにこの範囲を超えて、遠くへ出かける風来坊のような猫もいます。好きなときに出かけて、気ままに帰ってくる。
家族はそんな習性を受け入れながら、ときどき何日も帰ってこないと心配になったり、それこそどこかで死期を迎えたんじゃないかと思ったり……。
そんな風来坊な猫と暮らしていた一家をご紹介しましょうふらりと出かけて、数日帰らないこともしょっちゅうなオス猫。
でも、彼が最期、死に場所に選んだのは、家族のそばだったのです。
名前 クロ
年齢 享年 14歳
性別 オス
種類 ミックス(キジトラ白の長毛)
性格 ・陽気でフレンドリー ・ときどきガンコ
特技 ・布団の上で大の字で寝ること ・庭で昼寝する場所を見つけること
好きなもの ・初対面の人へのあいさつ ・夜の散歩 ・マグロ
最期は戻ってきた自由な猫
思えば、クロはずいぶんと自由な猫だった。
クロとの出会いは、私が中学生のころまでさかのぼる。
学校から帰ってきたら、中途半端な大きさの子猫が家の中をうろついていた。母に聞く と、飼えなくなったという知り合いからもらってきたという。
うちには、私が小さなころから常に猫がいて、私も猫好きに育ったのだった。
「今度の猫はずいぶんフサフサしているなぁ」と思いながら、子猫にちょっかいをかけた。
どんな猫種の血が混ざっていたのだろうか、クロは田舎の中学生があまり見たことない ような長毛の猫だったのだ。
クロは元いた家では、完全に室内で過ごしていたようだ。
しかし、我が家の歴代の猫はみんな、自由に外に出ていた。現在では推奨されない飼い方だと承知しているが、 40年近く前の田舎ではそういう猫が多かった。
クロを庭に下ろしたところ、最初はおっかなびっくりでよちよち歩いていた。しかし、すぐに外の楽しさに目覚め、頻繁に出かけるようになった。
最初は庭で満足していたが、だんだん行動範囲が広がっていったようだ。私が高校生に なったころには、だいぶ遠くの家の人から、「お宅の猫が歩いていた」という話を聞くこ とがあった。クロの長毛は目立ったので、ひと目でわかるのだ。
クロは一日に何度も室内と屋外を行き来するのが好きだった。
朝起きてごはんを食べて外出。昼前に帰宅してごはんをねだる。また外出。夕方、母や私が帰宅するころに合わせて帰ってきて、またごはんをねだる。そのあと、家や庭でゴロゴロして、夜早い時間に外出。もしくは私の布団で早めに寝て、早朝に外出する。
そんなルーティンで、家と外を行ったり来たりしていた。
帰宅するときには、大きめな声でニャオニャオと鳴きながら家に入ってきていた。まるで「帰ったぞー」とアピールしているようで、それに対し、家族に「おかえり〜」と言われるのが好きだった。
夜の外出が長引いて、翌日の夕方ごろに帰宅することもあったが、丸一日不在にすることはほとんどなかった。
ところが、クロが4歳くらいのときのことだ。3日たっても帰ってこない。
さすがに心配した母や私がクロをよく見かけるあたりに探しに行ったが見つからない。
どこかでケガして動けなくなっているのかも。このまま帰ってこなくなったらどうしよう。家族がおろおろしていた4日目の夕方。ようやく遠くからニャオニャオと声がした。
クロが帰ってきたのだ。少々ボロボロになっていたが、元気そうだった。むしろ「や あ、帰ってきたぞ」と、たいそう偉そうな顔をしていた。
そして、腹をすかせていたのか、ごはんをたっぷり食べてすやすやと寝始めた。
留守にしていたことなどまったく気にしていない態度に、「なんて自由なヤツなんだ」 と呆れたものだ。