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さだまさしさん、母を語る。「お前を信頼しています 母より」手紙の最後には、いつもこの言葉がありました

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ゆうゆう編集部

グレープでのヒットも母にとっては「当たり前」

大学2年生になると学校へも行かず、昼夜アルバイトをするように。

「そうしたら体を壊しちゃった。医者からは『働き続けたら死ぬよ』なんて言われて、長崎に逃げ帰りました。突然息子が帰ってきたら『あんた、どうしたの?』とかいろいろ聞きそうなものだけど、母は『おかえりー』とだけ。普通にご飯が出てきて、普通に話して、普通の対応をしてくれました。まだ僕の何かに期待してくれていたんでしょうね。正直、僕は期待を裏切ってばかりでダメな子どもだったのに。それは今でも申し訳ないなと思います」

長崎で体を休めていると、高校時代のバンド仲間である吉田政美さんが訪ねてきた。二人でギターを弾いて、歌って。まもなくフォークデュオ「グレープ」が誕生した。
73年にデビューすると、2作目のシングル「精霊流し」が大ヒット。

「グレープで歌い始めたとき、母はまさか僕がこれで食っていくとは思っていなかったと思います。それなのに、ヒット曲が出ると『当たり前でしょ』という感じでした。『頑張ったね』でも『すごいね〜』でもなく、『そりゃ、あんたはそうでしょ』と。これには僕もびっくりしました」

さださんには、今も思い出される母の言葉があるという。
「母は常に『あんたは大丈夫』と言っていました。僕は小学生の頃から適当な子どもで、宿題をしていったことが一度もないんです。母からは『自分がやるべきことをやらないのは無責任だ』と、よく叱られました。

『あんたみたいな無責任な子は、ろくな大人にならない』って。でも僕が困っているときや迷っているときには、『あんたは大丈夫』。母親からまっすぐに目を見てそう言われると、誰に言われるのとも違って心強いんですよね。『こんな俺でも大丈夫なのかな』と思えました」

厳しくも優しい母は「夜叉のごとき菩薩」

大きな愛情で子どもたちを包み込んでくれる、優しい母だった。

「母は愛情をちゃんと伝える言葉をもっていた人でもありました。3人の子どもを分け隔てなくかわいがって、『私のお宝さん』と呼んで。何が宝なんだかと思っていましたけど、そのひと言から母の愛情が伝わってきます。本当はすごく心配性なのに、あれこれ口出しすることもなかった。『やりたいようにやれば』と、僕たちを尊重してくれました」

その一方で、正しいことに対しては厳しい一面ものぞかせた。さださんはそんな母を「夜叉のごとき菩薩」と表現している。

「行儀やしつけにはめちゃめちゃうるさかったし、人に迷惑をかけたり義理に対して背くようなことをしたりすると鬼のように厳しい。けれども最終的には菩薩のように子どもをかばう人でした。夜叉と菩薩が同居するのが母親なのでしょうね」

母は晩年パーキンソン病を患い、2016年にこの世を去った。最期まで全身全霊で生き抜き、家族を明るく照らし続ける存在だった。

「あまり深刻に母が悩んだり、考え込んだりしている姿も見たことがありませんでした。そりゃあ悩みはいっぱいあったと思いますよ。だけどいつもケラケラと笑って、悩みごとも最終的には笑い話にして。そういう器の大きな人でした。だから僕も母みたいに常に明るいふりをしていようと思うようになりました」

さださんがグレープとしてデビューして50年。長くソロで活動してきたが、今年2月にはグレープ名義のアルバムをリリースした。

「約47年ぶりに、吉田と僕が腹をくくってつくったアルバムです。『天人菊(ガイラルディア)』というオリジナル曲は、大人になって、母がいなくなってから、母の好きだった歌のことを思い返すという歌。もし母が聴いたら、きっと『いい』と言ってくれるだろうなと思います」

母が導いてくれた音楽の道。母への感謝と恩返しを胸に、さださんはこれからも歌い続ける。

PROFILE
さだまさし
シンガー・ソングライター、小説家●1952年、長崎県生まれ。73年、フォークデュオ「グレープ」としてデビュー。76年よりソロ活動を開始し、「関白宣言」「北の国から」など数々のヒット曲を生み出す。また、小説家として『解夏』『風に立つライオン』などを発表。NHK「今夜も生でさだまさし」のパーソナリティ、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」出演など、幅広く活躍中。

解散から47年の時を経てよみがえるグレープ名義の最新作

2022年11月に結成50周年を迎えた伝説のフォークデュオ「グレープ」が、約47年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリース。「精霊流し」「縁切寺」「無縁坂」のセルフカバー3曲の他、母を題材にしたオリジナル楽曲「天人菊」など、全10曲を収録。6月からの「さだまさし50thAnniversary コンサートツアー2023 ~なつかしい未来~」の開催も決定!

『グレープセンセーション』
VICL-65764
ビクターエンタテインメント
3850円(税込)

※この記事は「ゆうゆう」2023年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

ゆうゆう2023年05月号

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