「私は実家に帰ります!」王妃が王に啖呵を切る韓国ドラマ『元敬(ウォンギョン)〜欲望の王妃〜』が面白い。前半1〜12話レビュー【ネタバレあり】PR
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藤岡眞澄
最近見た韓国ドラマのなかで、とびきり心をつかまれたのが『元敬(ウォンギョン)〜欲望の王妃〜』です。王妃として、時に王と対立し、側室問題に翻弄されながら、自らの信念を貫く聡明な主人公の姿に、共感する女性も多いのではないでしょうか。2026年7月1日(水)より、各動画配信サービスで見放題第1弾が順次開始されます(詳細は各動画配信サービスでご確認を)。今回は前半1〜12話の見どころをレビューします。
※ネタバレを含みます
元敬は、朝鮮時代の“でき過ぎバリキャリ女性”
「私は実家に帰ります‼」
もしかして、あなたも口にしたことがあるかもしれない夫への“三行半”を、王妃が夫である国王に突きつける。こんなに親近感の沸く韓国時代劇があっただろうか? しかも、ほんとうに実家に帰ってしまうのだから——。
時代劇が苦手な人でも、何の予備知識がなくても、そのおもしろさに引き込まれるのが『元敬(ウォンギョン)~欲望の王妃~』。
主人公の元敬は、朝鮮王朝の第3代王・太宗(テジョン)ことイ・バンウォンの妻=王妃。初代王・太祖の第1夫人の5男だった夫を王位に就かせたキングメーカーであり、先見性と知略に富んだ政治的パートナーとしても知られる。また、名君の誉れ高く、現在流通している韓国紙幣10,000ウォンの肖像に描かれる第4代王・世宗(セジョン)を育てた母でもある。
ドラマの舞台は男尊女卑が厳しかった李氏朝鮮時代の初期。王である夫が「そなたのほうが王の素質があるやも……」と畏怖と嫉妬を募らせるほどに、“民が主の国・朝鮮をつくる”という理想に生涯を賭けて突き進んだ王妃・元敬の一代記である。
『愛の不時着』(2019)や『涙の女王』(2024)など大ヒットドラマを制作してきたスタジオドラゴンが、朝鮮時代の“でき過ぎバリキャリ女性”の視点で元敬を描くのだから、おもしろくないわけがない。
15歳と17歳で結婚した2人
1398年、開京(ケギョン)。イ・バンウォン(イ・ヒョヌク)は異母弟である世子(セジャ=王位継承者)を殺害し、権力を掌握した。父である初代王イ・ソンゲ(イ・ソンミン)は激怒し、父子の関係は決裂する。2年後の1400年、今度は兄のイ・バングァ(イ・スンジュン)が乱を起こすも、バンウォンは妻である元敬(チャ・ジュヨン)、そしてその実家である高麗王朝の名家ミン氏一族の後押しを受けて乱を制圧し、王位に就く。
朝鮮第3代王のイ・バンウォンは、いまで言えば“逆・玉の輿”。手にした権力は、妻の実家の後押しあってのものだった。
それでも、若き日の王と王妃、15歳と17歳で結婚した2人は、“万民のための新しい朝鮮をつくりたい”という理想を共有していた。
「この私とともにすべてを分かち合おう」と誓った青年・バンウォンの右手親指に2歳年上の妻・元敬がはめた龍の指環。この指環はその後、バンウォンの感情のバロメーターになるので要チェックだ。
元敬が可愛がっていた侍女を、側室に!
バンウォン&元敬夫妻のパワーバランスを象徴するのが、王権奪取の戦に立ち上がる日のエピソード。「恐ろしい……」と弱音を吐く夫に、「今夜、歴史は私たちの味方です」と喝を入れる妻。小心で猜疑心が強い夫に対し、妻はあくまで強気で前しか向かないのがこの夫婦だ。
その結果、王座に就いたバンウォンに元敬は「そなたなしでは成し得なかった」と言わしめる。
新しい王の就任を祝う宴に集う人々の前で、2人が目線と呼吸をピタリと合わせて舞を披露する姿は美しく、幸せオーラに満ち溢れている。この日のことを元敬は一生涯、忘れることはなかった。
ところが、だ。バンウォンの小心が徐々に顔をのぞかせ、夫婦関係に亀裂が入るのに、時間はかからなかった。
玉座に座るバンウォンを不安にさせた原因はいろいろだ。
愛する世子を殺された父・太祖イ・ソンゲ(イ・ソンミン)の決して消えることのない怒りと憎悪。
権力と財力を求めて王宮で暗躍する権臣たちの忠誠心への疑心暗鬼。
そして何より、妻・元敬とその実家であるミン家の力で王になれたという“逆玉”風評。民にそう思われていることは、バンウォンにとって耐え難い恥辱だった。
しかも、ミン家の人脈と財力を駆使した独自の情報網で、一歩先を読んで機知に富んだ戦略を提案してくる元敬の政治的センスには勝てない、という劣等感。
同じ恥辱を元敬にも味わわせるべく、よりにもよって元敬が可愛がっていた侍女を次々、側室として王宮に迎え入れる。
素直に“逆玉”の自分ではいられない、“こじらせ王”
「王様は長年、私がお慕いしてきた方とは別人のようです」と無念さをにじませる元敬に、「この国では私が王で、そなたは臣下である」と言い放つバンウォン。
強大な権力を手中に収めるや横暴な“関白亭主”に豹変したバンウォンに、何ごとも「2人で分かち合う」つもりでいた元敬は静かに怒りの炎を燃やす。ジェンダー観のすれ違いが鮮明になる場面だ。
出会った頃の2人は、「怒りを鎮めたいときは、剣術が一番だ」と度々剣を交えた。真っ白な雪景色の中、2人が激しく立ち回る回想シーンは、ドラマ屈指の美しさだ。だが、王妃となったいま、元敬はたった一人、空に向かって剣を振るう。
“静”なる怒りを、“動”を以て鎮める——。その映像のコントラストがドラマに絶妙なアクセントをもたらしている。
それにしても、父である太祖イ・ソンゲの息子バンウォンに対する憎悪は常軌を逸していた。
重そうな鉄球を振り回してバンウォンを殺害しようとしたり、かつての配下を秘かに結集して王宮に攻め込もうとする。だが、元敬がミン家から得た極秘情報のおかげで父の暴挙は阻止された。
ドラマ前半の陰の立役者は太祖イ・ソンゲを演じたイ・ソンミン。鉄球を血走った目でぶん回す姿の迫力は、さすが“憑依的俳優”と評されるだけのことはある。イ・ソンミンが出てくるとそれだけで、何か危ないことが起きるのでは?と不安になった。
ところが、嫉妬とはおそろしい。バンウォンは常に窮地を救ってくれるありがたい存在の元敬と実家のミン家の権力を牽制しなくては、と考えるようになる。科挙にも合格したほどプライドの高いバンウォンは素直に“逆玉”の自分ではいられない、コンプレックスを抱えた“こじらせ王”なのである。
バンウォンが当てつけのように両班の娘を3人目の側室として迎え入れたことで、元敬は冒頭の捨て台詞を残して実家に帰ってしまい、中宮殿(后の住まい)には長らく明かりが灯る気配がない。だが、元敬は王が迎えに来ることを確信していた。
一方のバンウォンは、去られて知る妻の忠誠とサポート力、そして己の妻への深い愛——。孤独を募らせた王は、夜中に馬を走らせ、元敬を迎えに行く。結局、バンウォンは心の奥底では元敬を信じ、愛しているのだ……。
元敬を演じたチャ・ジュヨンは、まさにハマり役
元敬を演じたチャ・ジュヨンが、まさにハマり役。美貌と知性、そして品格を持ち合わせた王妃・元敬を演ずるには彼女しかいなかった、と思わせる。低音ボイスが醸し出す威厳も、役にくっきりとした輪郭を与えている。
「かつらが相当な重さで、固定するためにワックスを塗って一日中つけているので、髪も抜けるしヘルニアにもなった」とテレビのインタビューで苦労を語っているが、オヨモリ(朝鮮王妃の髪型)がこれほどしっくり似合う女優はなかなかいない、と思う。(※1)
バンウォンを演じたイ・ヒョヌクのコンリョンポ(袞龍袍/王の執務着)姿も凛々しく、役に馴染んでいた。回想シーンと夜の共寝以外のかなりの場面、イ・ヒョヌクはブルーのコンリョンポを着て玉座に座っている。動きの少ない演技の中で感情を繊細に表現してみせる。
しかも、主演の2人、チャ・ジュヨンもイ・ヒョヌクも時代劇初挑戦だというから驚きだ。
「意外にも王妃という役柄には行動の制約が多く、限界を感じた。軽率な振る舞いをしてはいけないキャラクターなので、表現できるのは目だけだった。目で物語を語るしかないと思った」(※2)
34歳にしてドラマ初主演の遅咲きヒロインがドラマに賭けた役づくりへの意気込みが感じられる。
仲直りを果たしたバンウォンと元敬。2人は後半、新たな朝鮮建国の精神を胸に、都を漢陽へと移してリ・スタートする。
※1 出典/『食客ホ・ヨンマンの白飯紀行』(TV CHOSUN)
※2 出典/『2時のデート アン・ヨンミです』(MBC FM4U)
『元敬〜欲望の王妃〜』
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※この記事はPLAN Kエンタテインメントの協力のもとに作成しました。
