田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」
3週分を子役時代にあてた異例の挑戦。朝ドラ『舞いあがれ!』いよいよ本編へ
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田幸和歌子
舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!
『心の傷を癒すということ』を手掛けた桑原亮子氏に加え、嶋田うれ葉氏、佃良太氏のチーム制脚本×福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の放送が10月3日にスタートし、3週分を終えた。
本作は、東大阪で生まれたヒロイン岩倉舞(福原)が、長崎・五島列島に住む祖母や様々な人との絆を育みながら、パイロットとして空を飛ぶ夢に向かっていく物語。
朝ドラにとってスタート2週間はヒロインやその家族、物語の世界観を視聴者に理解してもらい、愛してもらうためのつかみの大事な部分だ。しかも、多くが2週間で本役にバトンタッチする中、本作は異例の3週分を子役時代にあてている。これは非常に思い切った挑戦であり、脚本・演出・子役を含めたキャスト陣に対する自信の表れでもあるだろう。
結論から言うと、その自信は納得のもので、1日15分×週5話×3週間をかけて、主人公や家族、友人たちの成長や変化が非常に丁寧に描かれていた。
小学3年生の主人公・岩倉舞(浅田芭路)は、ネジ工場を営む父・浩太(高橋克典)と母・めぐみ(永作博美)、兄・悠人(海老塚幸穏)の4人家族。
舞は原因不明の発熱で学校を休みがちで、そんな舞に両親はかかりきりで、私立中学の受験を控えた悠人は不満を抱いている。そんな中、舞の発熱、悠人の受験、工場の事務とでパンク寸前のめぐみを心配した浩太は、医師から舞の環境を変えることを勧められたことを機に、めぐみに故郷の長崎・五島で舞としばらく過ごすことを提案する。
舞と二人、五島の母・祥子(高畑淳子)のもとに来ためぐみ。実はめぐみは駆け落ち同然で家を出ており、14年ぶりの里帰りだった。しかし、そんな親子のわだかまりが舞を媒介に解けていく。心配し過ぎるめぐみを見て、舞を五島に置いて、東大阪に戻れと言う祥子。本当は娘との再会が嬉しくないわけはないが、頑張り屋のめぐみの肩の荷を軽くし、舞を不安から解放するためだった。と同時に、自身がめぐみに対して失敗し、娘と14年間も絶縁状態になってしまったこと、孫にも全く会えなかったことの反省あってのものだ。
そんな中、舞は祥子との二人暮らしの中で、自分のことは自分でするようになり、失敗は悪いことじゃないと学び、「失敗=不安、恐怖」から徐々に解放されていく。人の気持ちは敏感に察するのに、自分の気持ちが言えない舞が、祥子や五島の人々との関わりを経て、自分の気持ちを伝えられるようになる。しかし、それは寂しいかな、舞の五島暮らしの「卒業」でもあった。
第三週目。東大阪に戻った舞を迎えたのは、舞に触発された浩太と悠人の手作りカレーだった。
しかし、久しぶりに登校すると、舞を気にかけ、手紙をくれた飼育係仲間の久留美(大野さき)が孤立していた。ウサギのスミちゃんが死んでしまったことで同級生たちに仲間外れにされていたのだ。そんな久留美に、ウサギは自分の病気を隠す性質があると本で読んだため、久留美のせいではないと伝える舞。
しかし、舞がたくましくなる一方、浩太の工場は経営危機に瀕していた。
実は浩太は飛行機を作るのが夢で、一生懸命勉強し良い大学・大きい会社に入り、飛行機を作る部署に行ける一歩手前で父親が亡くなり、会社を辞めて工場を継いだのだった。
ところが、価格競争の激化により、長年の取引先から取引終了を言い渡されてしまう。仕事をもらえるよう、方々に必死に頭を下げてまわる浩太だが、その姿は周りの人たちを動かす。舞は浩太に元気になってもらえるよう、模型飛行機を作ることを決意するが、多忙な父を頼らず、自力で勉強を始める。幼馴染の貴司(齋藤絢永)と訪れた古本屋「デラシネ」で模型作りの本を購入し、そこを秘密基地としつつ、久留美も誘って、若手職人に教えてもらいつつ飛行機を完成させる。高く舞いあがった模型飛行機は浩太に元気を与えることに。
一方、必死な浩太に、特殊ネジの試作の仕事が舞い込むと、無理なスケジュールにもかかわらず、周囲の力を借りながら、納期ギリギリに完成。その品質が良かったことから、大量発注を得て、経営危機を乗り越えることができた。
そして10年後、舞は大学の航空工学部に入学、悠人は東大に入り、就活中で、浩太の工場は大きくなっていた。
……と3週分を一気に駆け足で振り返ったが、正直、あらすじでは本作の魅力の半分も伝えきれないことを付記しておきたい。なぜなら、セリフやナレーションのない部分、役者の表情や仕草・何気なく差し込まれるカットから、登場人物の心情や背景、日常が見え、土地の匂いが漂ってくることにこそ『舞いあがれ!』の魅力があるからだ。
いよいよ次週は本役にバトンタッチしての本編へ。3週間の出来があまりによいことがむしろ不安材料になるほどの好スタートの続きは、いかに!?