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田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」

「当たり前」を粛々とこなす人々の「リアル」に泣かされる。「舞いあがれ!」が演出する【普通】の力。

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田幸和歌子

舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!

東大阪で生まれたヒロイン岩倉舞(福原)が、長崎・五島列島に住む祖母や様々な人との絆を育みながら、パイロットとして空を飛ぶ夢に向かっていくNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の4週目。

舞(福原遥)は浪速大学の航空工学科に入学し、人力飛行機に惹かれ、「なにわバードマン」に入部する。そこで、琵琶湖で開催される「イカロスコンテスト」に向けて、設計担当の刈谷博文(高杉真宙)やパイロット・由良冬子(吉谷彩子)らと共に、人力飛行機「スワン号」作りに取り組む。

しかし、スワン号は書類審査で不合格になり、その代わりに琵琶湖で女性パイロットの飛行距離記録に挑戦することに。そんな中、記録飛行が8月に決定、そのテストフライトを6月に行うが、スワン号が墜落し、由良は足を骨折して飛べなくなってしまう。部員たちからはスワン号を修理し、由良と体格の近い舞をパイロットにする案も出るが、刈谷は無理だと言い、なにわバードマンを去る。そんな中、舞はパイロットになろうと思い始める。

ざっくりとあらすじを振り返ってみたが、実に「普通」だ。

しかし、「普通」だからこそ、脚本・演出・役者の力が明確にわかる。おそらくこのあらすじで別の脚本家が描き、別の演出チームが作ったら、全く異なる物語になっていただろう。

ちょっと怖い想像をしてみた。なにわバードマンの部員たちは、唯一の1回生女子の舞をチヤホヤする要員にされ、舞の器用さがみんなに評価され、さしずめ刈谷は舞とすぐに衝突・互いに意識し始め、由良は舞がパイロットへの憧れを抱くためだけの“着火剤”にされ、舞の隠された才能に嫉妬し、スワン号の墜落は舞がピンチヒッターとしてパイロットの才能を開花させる材料にされていたかもしれない。ああ、なんという恐ろしい想像だろう。しかし、これはある意味朝ドラっぽい。

ところが、本作の場合、前年の「イカロスコンテスト」の番組を観て、「なにわの天才」とテレビで紹介された刈谷に憧れて入部した部員がいれば、水に落ちながら「翼が折れても心は折れへん!」と絶叫した現代表・鶴田葵(足立英)への憧れがきっかけだった部員もいる。

そして、当の主役・舞はといえば、昔から飛行機が好きだったこと、初めて飛行機の話をできる友達ができたのが嬉しく楽しいという、なんら劇的なきっかけのない、シンプルな思いが入部の理由だ。でも、それこそが何よりかけがえのないモノだと気づかされる。

舞はしんどいトレーニングと減量を続けてきたストイックな由良の姿を見ていたからこそ、由良を飛ばすことに全てを賭けてきた部員たちの思いを知るからこそ、人力飛行機を作るために留年し続けた「永遠の3回生」 “空さん”(新名基浩)がこれを最後に卒業・地元に帰る決意を聞いたからこそ、このまま終わりにさせたくないと思う。だから、自分が飛ぼうと思うのだ。学生時代という「期間限定の夢」がとにかく眩しい。

「飛行機の部品を作る」夢を持ちながら、工場を拡大・従業員も増え、ネジメーカーとなって頑張る浩太(高橋克典)も、勉強・バイト・父の世話に追われつつ看護師への夢に向かって頑張る久留美(山下美月)も、向いていると思えないSEの仕事に就きながら本を読むこと、詩を書くことという好きなことへの思いを明確にしていく貴司(赤楚衛二)も、それぞれが夢を抱きつつ、自分の持ち場で懸命に目先の仕事と向き合っている。

そんな中、唯一の異端分子と言えるのは、就職を決めるも、3年で辞めて投資家になる、金儲け以外に働く意味がどこにある?と聞く兄・悠人(横山裕)。しかし、そんな悠人にも葛藤がありそうで……。

当たり前のことを当たり前に粛々とこなす人々のリアルに泣かされる『舞いあがれ!』。自分もまた、日々の仕事や暮らしにおいて、かくありたいと背筋の伸びる作品だ。

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