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田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」

朝ドラ【舞いあがれ!】深い絶望が岩倉家を覆い尽くす。気になる、めぐみ(永作博美)の思い

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田幸和歌子

舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!

福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』にリーマンショックの影が忍び寄った昨年末。

金融危機でお金の動きが止まり、経済活動がストップして世界同時株安となったリーマンショックと、人の動きが止まり、経済活動も止まったコロナ禍は似ているとよく言われる。いずれも煽りを食うのは、中小企業や個人事業主など、立場の弱い人たちだ。
そんな現在と重なる残酷な光景が第13週・14週と年またぎで描かれた。

舞(福原)の博多エアラインへの就職が1年延期になったのは序の口で、IWAKURAは経営悪化に陥り、浩太(高橋克典)が心労で倒れ、入院。胃潰瘍で、大事に至らず済んだものの、退院後も赤字続きのために、信用金庫や経理担当者から人員整理を迫られることになる。

一方、リーマンショックの動きを読んでいたことで注目され、トレーダーとして成功している悠人(横山裕)が久しぶりに帰省。しかし、悠人は浩太に工場を売ることを勧め、口論になってしまう。さらに、舞に工場を一緒に立て直す協力を頼まれると、その場しのぎの親切は無責任だと舞を突き放す。

浩太と悠人は一見、不況の犠牲者である弱者と、それを好機にして儲ける強者の構図だ。コロナ禍で中小企業や個人事業主が倒産していく中、最高益を出した大手企業も多い現状と重なり、複雑な思いになる。 
しかし、負債が膨らむ前に損切りしろと言う悠人の進言は、ビジネスにおいては正論だし、誰も切り捨てられない浩太が現実を見られていないというのももっともな指摘だ。

とはいえ、そんな悠人もまた、親の会社が潰れかけたことで、ずっと努力を重ねて来た私立中学受験を諦めざるを得ないピンチに見舞われた。
言ってみれば、弱者として踏みつけられる親を、中小企業のあり方を見て来たからこそ、人に踏みつけられない人生を自分の努力で選び、手に入れてきたのである。しかし、そうした努力を浩太は認めようとしない。

そんな中、他社から引き抜かれた章(葵揚)の置き土産となった試作品のネジが完成し、大口の発注を得られるチャンスが訪れる。

納期の関係から、本格発注される前にフル稼働で作り始めなければいけないリスクがありながらも、作ることを決めた浩太。ところが、発注先で変更があったことから、ネジは不要になったと告げられてしまう。
あまりに酷い仕打ちに見えるが、実際、正式な発注があったわけではなく、リスク承知で稼働していただけに、納得はいかなくとも、受け入れるしかない。

リーマンショック以降、こうした下請けの中小企業は発注元に振り回され、どれだけ沈んで行ったのだろうか。そして、それは今も繰り返され、ますます悪化しているように見える。

さらに絶望的な出来事が起こる。浩太の急死だ。
会社を支えたいと言った舞に、自分の夢を追いかけてほしいと言った浩太。しかし、最初は「その場しのぎの親切」と言われた舞が、結果的にパイロットになる夢を諦め、家業を継ぐことになるのか。だとしたら、浩太は無念だろう。

さらに気になるのは、めぐみ(永作博美)の思いだ。
自身は何でもできる子だったが、大学時代に浩太の父が倒れ、浩太が工場を継ぐことになったことで、支えるために駆け落ち同然で五島を出ためぐみ。

そこから小さな工場で、ネジの箱詰めなども1人でこなし、ずっと浩太を支える人生だった。その一方で、裕福ではない暮らしの中で悠人の思いを応援し、塾に通わせ、私立中学を受験させ、東大に行く子を育てたのだ。

だからこそ、めぐみには悠人の思いが理解できるところも本当はあったのではないか。そして、経理からの相談を受け、人員整理を勧めたものの、人を切ることができない浩太を説得できなかった。そんな優しい浩太が好きだからこそだが、もし自分が説得できていたら浩太は無理をしなかったのではないか、舞を巻き込まずに済んだのではないかと、めぐみが今後自分を責めてしまう可能性もある。

「うそ? うそやん、な?」
驚き、笑い、泣き崩れためぐみの姿に、かつて舞の発熱と悠人の受験、家事と工場の仕事でいっぱいいっぱいになり、台所で1人涙を流しながら食器を洗い、うずくまっためぐみの姿が重なる。

しかし、そのときにそばにいてくれた浩太はもういない。あまりに深い絶望が岩倉家を覆い尽くしている。

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