「またお会いしましょう」国民を励ましたエリザベス女王。ジャーナリスト多賀幹子さんが選ぶ女王陛下の3つの言葉とは
「言葉」は、単なる伝達手段ではなく、その中に「力」が秘められているように思います。「エリザベス2世 女王陛下ほど、言葉の力を信じていた方はいません」というのは、英王室に詳しい、ジャーナリストの多賀幹子さん。ユーモアと機知と、あたたかい気持ちにあふれる女王陛下の言葉から3つを選んで、紹介いただきます。
ユーモアあふれるお人柄が言葉の端々に
2022年9月8日、96歳でこの世を去った英国のエリザベス2世。25歳で即位して以来約70年、英国史上最長在位の君主として君臨し、国民の信頼と尊敬を集めた。
「英国民にとって、エリザベス女王は君主であると同時にお母さんであり、おばあちゃんであり、家族のように感じられる存在であったと思います。だからこそ、訃報を受けた国民がバッキンガム宮殿の前に長い列を作り、お互いに慰め合ったり励まし合ったりしながら女王の死を悼んだのでしょう」
そう話すのは、ロンドンに6年間在住した経験があり、英王室にも詳しいジャーナリストの多賀幹子さん。22年6月に公開されたドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』では字幕監修も務めた。
「『お元気でしたか?』と尋ねられて『まだ生きていますよ』とお返事されるなど、エリザベス女王は非常にユーモアのある方でした。だからこのときも単に『元気よ』とは言わず、茶目っ気とユーモアのある言葉で切り返したわけです。そして、この言葉には『これからもどんどん頑張りますよ』という意味合いも込められています。ご自身を励まされているようにも感じられ、生きることに前向きなご様子が伝わってきます」
「I am still alive.」
まだ生きていますよ。
外国からの客人に「お元気でしたか?」と尋ねられたときのエリザベス女王のお返事。「still(まだ)」にユーモアを感じます。90代ですから具合の悪いところもあったでしょう。でも、周囲に心配させないような言葉で明るくお返事された。気遣いの方でもありました。
ユーモアあふれるお人柄は、こんなエピソードにも。
「01年9月のアメリカ同時多発テロの後、ホワイトハウスでスピーチをすることになりました。すると演台の高さの調整がうまくいかなかったようで、女王のお姿が高い演台に隠れてしまい、お帽子しか見えないという事態になってしまったのです。女王はそれをしっかり覚えていて、15年後に再びアメリカを訪問してスピーチを行った際、『今日こそは私の顔が見えるかしら』とおっしゃいました。怒るわけではなく、笑い話に変えながらも『(15年前は顔が見えないという失礼があったけれど)今度は見えますよね』と、言わずにはいられなかったのかもしれません。女王らしいユーモアのある言葉でチクリと返し、一矢報いたわけです。そう考えると、ちょっと怖い言葉でもありますけれど(笑)」
「 I do hope you can see me today.」
今日こそは私の顔が見えるかしら。
アメリカに招かれてスピーチをしたのに、演台の調整ミスという不手際によってテレビ放送では帽子しか映らなかった……。それから15年後、アメリカ上院でスピーチを行った際に、こんな言葉でチクリ。ユーモアもさることながら、記憶力、頭の鋭さに感服します。