田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」
朝ドラ「舞いあがれ!」貴司が舞の相手役だと確信したのは、窓越しから柏木(目黒蓮)が貴司に彼氏として挨拶したときだった
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田幸和歌子
舞ちゃんはどうなる⁉︎ わくわくしながら朝ドラを見るのが1日の始まりの習慣になっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!
福原遥がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の第20週「伝えたい」が放送された。
今週は、ずっと変わらずいられると思っていた舞(福原)と貴司(赤楚衛二)の幼馴染としての関係にピリオドが打たれる。
そんな2人の長い付き合いに変化を与えるのが、貴司の担当編集者・リュー北條(川島潤哉)と、貴司の短歌のファン・秋月史子(八木莉可子)だ。
リュー北條は短歌集を出すために、300首の他に、これまでとは異なる新たな10首を作るよう貴司に要求する。先週は「俗物」に見えただけのリュー北條が、今週は打って変わって編集者としての有能さを発揮しまくる。
一方、史子は差し入れをしたりデラシネの店番をしたり、編集者との打ち合わせに勝手に同席したり、短歌が理解できることで舞にマウントをとったり。自分が近所のおばちゃんだったら、貴司がなし崩し的に同棲状態にでもならないか、なんなら旅人時代にもメンヘラ女性に押し切られたことがあったのではないかとハラハラするが、本人の親は不安がる様子もなくお好み焼きを呑気に史子に渡していたので、それは杞憂なのだろう。
ともあれ、デラシネに通い詰め、貴司を別々の方向から追い込むリューと史子のやりとりがなかなか良い。
リューはピタピタの派手な服に覆われた長い手足を持て余し、狭い居間に大股開きで寝転び、だらしない猫のように寛ぐ。一方、これまた長い手足を無理やり折り曲げ、猫背で小さなちゃぶ台に座る史子も、可愛く見えてくる。
2人が入り浸るようになったデラシネに子どもたちが全然寄り付かなくなった図は、テスト休み期間だけ部活がない中学生に、日頃通い詰めている小学生が公園を乗っ取られた状況に似ている。
「パンチが足りない」「淡い」と貴司の短歌にダメ出しするリューを、史子は売ることだけを考えるエゴイストと批判するが、そこでリューの返した言葉は詩人のようだった。
「君の方がエゴイストだよ。自分好みの綺麗な短歌を書いていてほしいんでしょ? 美しいソプラノを聞きたいがために、少年の成長を止めようとするような残酷さを感じる」
リューは貴司に「相聞歌」、つまり恋の歌を詠めと言うが、貴司は詠むことができない。
そんな中、史子は、貴司のこれまでの300首にたった1首だけ恋の歌があったことに気づく。それが舞に贈られたものであろうことも。貴司と自身のつながりを自負する短歌が、自身の失恋につながるとは。
貴司に大切な人がいることを知ったリューが「その人の心に向かって、ど真ん中ストレート投げるつもりで書け」と訴える一方、史子は舞を訪ねる。そして、舞の部屋に飾られた貴司の唯一の恋の歌のはがきを手に取ると、それが「情熱的な恋の歌」の本歌取りであることを教え、貴司の本当の思いを聞きに行けとアドバイスする。
震え声で貴司の歌の意味を教え、自分は自分の歌を詠むと宣言し、唇を強く噛んで顔を上げ、これまでよりまっすぐ伸びた背で去る史子の美しさ。