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吉田秋生の漫画『ラヴァーズ・キス』を一気読み。「前を向いて生きていく力」に心を打たれる

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Anmitu

2人を取り囲む、朋章のバスケ部時代の後輩、鷺沢高尾(さぎさわ・たかお)、里伽子の親友、尾崎美樹(おざき・みき)、里伽子の妹、川奈依里子(かわな・えりこ)、依里子の同級生で高尾の連リクの後輩、緒方篤志(おがた・あつし)、4人の思いが交錯し、同じ時系列で別の物語として走って行く。それぞれが描く朋章像、里伽子像を交えつつ、それぞれの視点がジクソーパズルのピースのように、それぞれの主人公の物語に登場し、読み進めていくと大きな構図となって見えてくる。

ひたすらあこがれていた先輩、朋章への思いは、実は好きだったと気づく鷺沢。
本音を隠し、大人の顔色ばかりを見ているいい娘(里伽子)を執拗に嫌う妹依里子の心の内。
里伽子の親友美樹が、里伽子に恋する瞬間。
鷺沢に対する篤志の真っ直ぐな恋心。
自分の気持ちに苦しくても目をそらさずに、だからこそ他者をも憎み切れない。ピュアであるからこそ、おさえきれない感情がリアルで美しい。

たとえだれにも言えない性的指向や家族への葛藤であったとしても、のびやかで健康的にさえ思わせてしまう筆致。背景を書き込むバランスでセリフの裏側にある心理を描写してしまうセンス。人生観を覆すほどの出来事も、転機ともいえる感情も、前を向いて生きていく力にしようと感じられる。

そして、いつかまた生きていれば、転機は何度もおこる。これまでの価値観を変えるほどの「できごと」。認めがたい、信じがたい……、その都度、傷ついたり、せつなかったり、喜んだりしながら人生は巡っていく。拒むでも、応えるでもなく、受け入れるしかないさまざまな感情に向き合い、傷やあざをつくりながら私たちは生きていくのだ、と教えてくれる。

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