【らんまん】寿恵子の大冒険は、万太郎との夫婦の関係性をさらに深化させるものだった気がする
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田幸和歌子
初めて訪れた渋谷は、荒れて汚い状態だったが、差配人のりん(安藤玉恵)に相談。そこで、どうしたら幸せになれるか「妄想を話し合う」ことを勧められ、まず万太郎の植物採集の方法を真似することに。
脳裏に浮かんだのは、竹雄から万太郎の助手を引き継いだ横倉山での植物採集だった。寿恵子は万太郎同様、まずは自分の足で渋谷の町を歩き、周りをよく見て「観察」し、人に話を聞き、メモをとる。そうすることで、最初はわからなかった渋谷の魅力――握り飯、ボーロ、お茶などが次々に見つかり、渋谷の町に惹かれて行く。そして、渋谷で人と人をつなぐ「待合茶屋」を開くことを決めるのだ。
さらに、万太郎の提案により、店の守り神として、誰にでも愛される土佐の植物・ヤマモモを植え、自分の店をオープンする。
働き者で頼もしい寿恵子だが、思えば万太郎と結婚したばかりの頃は、二人でいるのに一人のときより寂しいとこぼしていたこともあった。しかし、今は「孤独が良いんです」と綾に語るまでに変化している。
万太郎の根っこはもっと違うところにあり、それは植物学者としての根っこであること。万太郎と植物の世界は、そばにいたいとか寄り添いたいとか、そんなものじゃたどり着けない、深くて遠い澄み切った場所だということ。家族を愛おしく思う夫として、父として、人としての万太郎に養分を与えるのは、植物学者としての根っこが生きてこそ。
逆に言えば、寿恵子の商才を開花させたのも、一番身近にいるのに手が届かない、万太郎という孤独であり、生きとし生ける全てのものを等しく愛する深く澄み切った純粋な魂ではないか。
渋谷を自分の横倉山にしたいという寿恵子の願いは、自分だけの深く澄み切った場所を持つ「同志」「理解者」としてのつながり、根っこの部分での結びつきへの希求かもしれない。
寿恵子の大冒険は、万太郎との夫婦の関係性もさらに深化させるものだった気がする。