【ブギウギ】危篤の母の前でスズ子が歌ったのは『恋は優し野辺の花よ』だった。このセレクトは実に良い
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田幸和歌子
そこで「梅丸楽劇団、スイングの女王、心を込めて歌います」と前置きし、スズ子が歌ったのは、スター・福来スズ子の『ラッパと娘』『センチメンタル・ダイナ』ではなく、幼い頃から銭湯「はな湯」で歌い、梅丸少女歌劇団入団の際にも母の前で歌った原点となる歌『恋は優し野辺の花よ』だった。このセレクトは実に良い。
また、最期までスズ子の実母・キヌ(中越典子)には、自分の知らないスズ子を見せたくないからと会わせないでくれとエゴを押し通す、ツヤの綺麗事で済まない母の重い愛。そこには最期まで愛情と共に不安があった悲しみが見える。
一方で、六郎のことはただ褒め続け、おそらくその思いを理解しているから、ツヤの前で無邪気な子どもであり続けた六郎の健気さにも胸を打たれる。
そんな六郎の出征とツヤの死が非常に繊細に鮮やかに描かれた今週。一方で少々不思議なのは、ツヤの病気やはな湯の経営、お金の描写が薄いこと。
極めつきに、ツヤの死後、はな湯の立て直しに400円くらい必要だろうと何の根拠もなくスズ子が言い出し、そこにゴンベエがツヤからもらったまま全く手をつけずに貯めていたという200円を差し出す。さらに唐突に、200円持って現れた新キャラにより、ゴンベエの素性がわかり、合わせて400円で2人が夫婦になってはな湯を継ぐことが決まる。
さらに不思議なのは、木曜までの余韻を台無しにしかねない唐突かつ超絶ご都合な展開も、多くの視聴者が「ファンタジー」として好意的に受け止めていること。
ところどころの繊細な心理描写と役者の力で視聴者を味方につけてしまえば、つなぎの大雑把さは気にならないということか。たくさんの悲しみと優しさ、ちょっぴりの幸せと笑い、そしてたくさん考えさせられる週だった。