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【ブギウギ】りつ子(菊地凛子)のモデルとなった淡谷のり子の史実。歌の最中に出撃となった兵士たちが1人、また1人と敬礼して去った

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田幸和歌子

【ブギウギ】りつ子(菊地凛子)のモデルとなった淡谷のり子の史実。歌の最中に出撃となった兵士たちが1人、また1人と敬礼して去った

「ブギウギ」第65回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。毎朝元気をもらえる作品になりそうな「ブギウギ」で、より深く、朝ドラの世界へ!

★前回はこちら★

【ブギウギ】何よりホッとするのは羽鳥夫婦(草彅剛、市川実和子)や茨田りつ子(菊地凛子)が出てくる場面だ

趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の年末第13週では、結核が再発した愛助(水上恒司)を看病するスズ子(趣里)の2人のささやかながら幸せな日々と、山下(近藤芳正)を新たなマネージャーに迎えて日本各地を慰問でまわる楽団、ますます悪化する日本の戦況が描かれていた。
 
そうした状況を受けて放送されたのが、年明けの第14週「戦争とうた」。
 
今週はスズ子(福来スズ子)と茨田りつ子(菊地凛子)、羽鳥(草彅剛)のそれぞれの「戦争とうた」のあり方、戦い方が描かれる。
 
上海で新たな音楽を模索する羽鳥善一(草彅剛)に、軍から依頼が。その依頼を利用し、羽鳥は李香蘭(昆夏美)らと国際的な音楽会を開こうと画策。黎錦光(浩歌)が作曲した「夜来香」に敵性音楽として日本では禁止されている米国の「ブギ」を取り入れ、「夜来香ラプソディ」にアレンジすることで、音楽が誰にも縛られない自由なものであることを証明しようと熱弁、目を輝かせる。そして、音楽会は大成功をおさめる。 

一方、気になったのは、スズ子とりつ子の描き方の対比だ。

鹿児島の海軍基地を訪れたりつ子(菊地凛子)は、特攻隊員のために歌ってほしいと要請を受ける。上官に軍歌を歌えと言われ、拒否したりつ子が、特攻隊員たちからリクエストされたのは「別れのブルース」だった。

上官はあえて席を外すことで黙認し、涙を流す。そして、りつ子の歌唱後、隊員達が「思い残すことはありません」「元気でゆきます」と声を上げると、りつ子は泣き崩れる。軍歌を歌うことを拒否したりつ子が、結果的に自分の歌で死にゆく彼らの覚悟を後押しし、死地に送ってしまうという皮肉。

この展開に泣き、また、古川琴音主演×八津弘幸脚本の『アイドル』を思い出した視聴者も少なからずいただろう。

しかし、モデルとなった淡谷のり子の史実では、歌の最中に出撃となった兵士たちが1人、また1人と敬礼して去ったという話を本人が幾度も語っている。

史実をあえて変え、隊員たちにいかにもセリフを言わせるのは、おそらく人々が「正しい」と信じ込まされたモノの嘘臭さ、時代の異様さを視聴者にわかりやすく提示するためだろう。そこには、今まさに世界で起こっている大きな2つの戦争への思いを、誰にでもわかる文脈で広く伝えたいという思いがあるかもしれない。

しかし、りつ子の歌が「死んで行く者たちへの思い」として描かれるのは、スズ子の歌の力——かつて愛助が言った「正気にさせる」「生きる人のための歌」を強調する意図もあるのだろう。

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