【ブギウギ】「あんたと一緒に生きるで」愛助から愛子へ “あんた”の見事な交代劇が描かれる
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田幸和歌子
そして、
「きたんかー」
スズ子の陣痛が始まる。いつも居間にかけてあり、それを見つめたり話しかけたりすることでスズ子をなぐさめ続け、支え続けてきた愛助の丹前を手に分娩室へ。
「愛助さん、痛いで——!」
ともあれ無事出産、坂口(黒田有)と山下(近藤芳正)も抱き合いよろこぶ。
「ボンに教えたらな!」
意気揚々と電話をかける坂口だが、その電話で告げられたのは、この世に生まれてきた赤ちゃんと入れ替わるかのように去っていった愛助の死だった。
2日後。少し落ち着いたころに坂口と山下は、愛助の死をスズ子に告げる。その瞬間から無言のままの演技が続く。無言の表情や背中がスズ子の絶望と虚無感をかたる。
「なんでワテの大切な人は……はよういなくなってしまうんや」
ようやくスズ子が口にした言葉はそんな絶望感に満ちていた。
そんなスズ子に愛助から託された手紙が手渡される。そこには愛助のスズ子への最後の思いが書き綴られていた。
<その子は僕らの宝物や。きっと、その子と一緒なら、何があっても生きていけるはずや。>
生まれたのは女の子。もし女の子だったら、愛助の字をとって「愛子」と名付けてほしいと手紙には記されていた。愛助と愛子の名前を泣きながら呼ぶスズ子。そして、愛子にこう力強く語りかけた。
「あんたと一緒に生きるで!」
“あんた”の見事な交代劇である。スズ子が生きる意味は、娘に移り変わった。<歌ってください>愛助の最後の手紙の言葉が新たな決意を呼び起こす。ドラマは大きな転機を経て、さらなる展開へ。19週のサブタイトル「東京ブギウギ」。ついに「ブギの女王」への道へと本格的に歩き出す。