【らんまん】致命的ミスで気になるのは、出禁になった万太郎よりも、どうしようもなく傷ついた田邊(要潤)の心のほうだ
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田幸和歌子
朝ドラを見るのが1日の楽しみの始まりとなっている人、多いですよね。数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。より深く、朝ドラの世界へ!
長田育恵作・神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説『らんまん』の第17週「ムジナモ」が放送された。
万太郎(神木)と寿恵子(浜辺美波)の間に長女・園子が誕生し、3人の幸せな生活が始まる。
万太郎は植物図譜の発刊と子育てに追われる中、久しぶりに藤丸(前原瑞樹)と波多野(前原滉)と牛鍋屋に集う。学問の厳しい世界に疲弊し、休学していた藤丸だが、万太郎との採集旅行の中で吹っ切れたといい、復学を決める。
実績や家の名誉などのために植物に憑りつかれている田邊や孝光(落合モトキ)と違い、ただ植物が好きなだけという万太郎の姿は、あまりに純粋で突き抜けていて、周囲にエネルギーすら与えるのだろう。ただ一人、田邊を除いては。
その頃、土佐には姉・綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)のもとに園子誕生の知らせが届き、2人は大喜び。2人は万太郎たちに刺激を受け、新しい時代に合う新しい酒造りに挑戦することを決める。
一方、長屋の人々も変化していた。ゆう(山谷花純)に頼まれ、万太郎は倉木(大東駿介)、福治(池田鉄洋)と共に引っ越しを手伝うことに。
道中で池を見つけると、1人で駆け回る万太郎はまるで子犬のよう。倉木(大東駿介)に肩車してもらい、実をとろうとする万太郎ののどかな光景を見ながら、福治は、楽しいと次に嫌なことがあるのが怖くなると呟く。
福治は寿恵子に「身の丈に合わねえ望みは不幸になる」と語っていたように、妻に逃げられ、失意の日々を送っていたし、ゆうも名主の息子との許されぬ恋の間にできた子のことを、遠くから一人で思っている。万太郎が長屋に住むようになったきっかけも、倉木に植物標本の入った鞄を盗まれ、探し歩いて先のご縁だったし、倉木が働くようになっても、妻(成海璃子)は今も質屋通いを続けている。
傍から見ると、いつも賑やかで楽しそうな長屋の人々だが、底には抜けられない貧乏暮らしがあり、喪失感を今も心に抱えている。しかし、ゆうは、楽しいを怖がる福治に、みんながよく笑うようになった長屋暮らしを「楽しいが日常になったんだ」と言う。万太郎の周りの人たちは、着実に変化していた。
それは田邊(要潤)のお抱えの画工・野宮(亀田佳明)も同じだ。波多野から顕微鏡の使い方を教えてもらった野宮は、精密な植物画の描き方を身につけつつあり、田邊に植物学の研究が進めば植物画家ももっと必要になるとして、槙野と並び互いに励んではいけないかと言う。
これまで自分の言いなりだった野宮の進言が、反抗に思えたのか、田邊は激怒する。
しかし、万太郎が池に落ちた際に見つけた水生植物を植物学教室に持ち帰ると、田邊はそれを見て一属一種の食虫植物だと言い、万太郎に論文を書くように指示するのだ。
田邊専属のプラントハンターになる提案を断り、逆鱗に触れた万太郎は、おそるおそる自分が発表して良いのかと尋ねたが、田邊は見つけた者が報告するのは当然だと返答。
徳永(田中哲司)も、教授がお前に世界への花道をかけてくださったのだから、恩を忘れるなよと励ます。万太郎と田邊の雪解けに見えた瞬間だった。