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俳優歴52年の小林薫さんが今思うこと。「今の若い人は芝居も感性もいい。僕らも彼らから学ばなくちゃ」

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ゆうゆう編集部

仕事をしていくうえで大切なのは何より健康

小林さん自身は、両親と、兄2人、姉2人、妹1人という大家族の中で育った。大黒柱である父はその中心にいて、ここぞというときは厳しかったという。

「大正生まれですからね、あまり口数が多いタイプではなかったので、近所づき合いとかも積極的にするほうではなかったように思います。ちょっと偏屈かな(笑)。まあ、子どもに見せない一面もあったとは思いますが、僕らからすると、仕事にまっすぐ行って、まっすぐ定時に帰ってくるという印象で、小さい頃はやたら怖かった記憶がありますね。ただ一方で、晩年の印象もあって、妙な寂しさをもっている親父だなぁとか、優しい一面もあるんだなっていう思いもあるんです。若いときの親父なんていうのは、ただ厳しく接するしかできなかったってところがあるんじゃないですかね」

20歳で俳優を志して故郷の京都を発つときも、強硬に反対されたわけではなかった。小林さん自身の決意も固まっていたので、特に許しを請うたわけでもない。だから、父には直前になって「出かけるからね」とだけ告げた。

「親も気配でわかっていたから、今さら何を言っても……と思っていたんでしょうけど、それでも一応『よせ、行かないほうがいい』とは言われましたね。田舎の人から見たら東京なんて生き馬の目を抜く恐ろしいところで、何が待ち受けているかわからないという気持ちがあったんでしょう。でも若いときは僕なんかもイケイケですから、反対は織り込み済みで、『わかった、わかった、そうだよな』と思いながら家を出ましたからね」

心配や寂しさを心の底にぐっと押し込めて、最終的には子どもの選んだ道を尊重する。そんな姿が、今回の映画で小林さん演じる父親と重なるところもある。やがて花開いていったわが子の成長を見届けて、きっとお幸せだったに違いない。

この先も公開作品が控え、ますますエネルギッシュな小林さんだが、目指すところは何なのか。

「僕は昔から目標ってないんですよ。僕らの仕事って、声がかかって初めて成立するものなんです。ご縁としかいいようがなくて、なるようにしかならないところがあるのでね。ただ、そのときにも、ちょっと元気に見せておくのは大事かもしれないね。キャスティングする側も、同じ俎上に2人候補がのせられた場合に『こっちのほうが元気そうだから、問題なく収録が進むんじゃないか』って思うかもしれない(笑)。それは冗談としても、この仕事をするうえで、やっぱり健康は大事なんだと思います」

先日、地下鉄に乗っていたら、背後から同世代の女性に肩を叩かれて「どうぞ」と席を譲られた。

「そういうこともあるんだなと思ってね。悔しいから、今度からは片足で立ってやろうと思っているんだ(笑)」

PROFILE
小林 薫

こばやし・かおる●1951年京都府生まれ。
71年から80年まで唐十郎主宰の状況劇場に在籍。退団後、映画、ドラマでも活躍する。
『恋文』『それから』で第9回、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。
主役を務めたドラマ「深夜食堂」は、2015年・16年に劇場版も公開、第26回日本映画批評家大賞主演男優賞受賞。
今年はドラマ「フィクサー」「THE DAYS」の他、映画『君たちはどう生きるか』に出演。また11月公開の映画『首』にも出演している。

INFORMATION

津軽塗の職人の父と後を継ぎたい娘の家族再生への物語
映画『バカ塗りの娘』

48もの工程を経てバカ丁寧に作られることから「バカ塗り」とも呼ばれる青森の伝統工芸・津軽塗。職人(小林薫)である父の仕事を手伝う美也子(堀田真由)は、その道に進みたいとはっきり言えないままパート先のスーパーと家を往復する日々だ。母(片岡礼子)は仕事優先の父に愛想を尽かし家を出て、兄(坂東龍汰)も家業は継がず美容師に。家族はバラバラになってしまうが、美也子は漆を使ってある挑戦をしようと決意する。

©2023「バカ塗りの娘」製作委員会

出演/堀田真由、小林 薫、坂東龍汰、宮田俊哉 
監督/鶴岡慧子
脚本/鶴岡慧子、小嶋健作 
原作/髙森美由紀
9月1日(金)より全国公開 ※8月25日(金)青森県先行公開
配給/ハピネットファントム・スタジオ

https://happinet-phantom.com/bakanuri-movie/

※この記事は「ゆうゆう」2023年10月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


撮影/Hananojyo ヘア&メイク/廣瀬瑠美 取材・文/志賀佳織

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