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【中野翠のCINEMAコラム】88歳 ウディ・アレン監督の新作。 明るくカラフルな場面の中に深いテーマが見え隠れする『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト・中野翠さんが、おすすめ映画について語ります。映画の舞台は、スペイン・バスク地方の街、サン・セバスチャンの映画祭。華やかな舞台の裏で繰り広げられる恋の行方とは?

ウディ・アレン監督の映画と言ったらニューヨークを連想するけれど、今回の『サン・セバスチャンへ、ようこそ』は、珍しくスペインのリゾート地のサン・セバスチャンが舞台。当然のごとく、陽光さんさん、明るくカラフルな映画になった。

物語はこんなふう……。この映画の主人公であるモート(ウォーレス・ショーン)は、アメリカの大学で映画を教えていたのだが、今は初めての小説を執筆しようとしている。そんな中、映画関係の仕事をしている妻(ジーナ・ガーション)と共にサン・セバスチャン映画祭に参加するため、スペインへ――。

慣れない地に行ったせいか、モートは精神的に不安定に……。妻は浮気をしているのでは?という妄想を抱いてしまう。精神科の女性医師に診察してもらうのだが、その医師というのが美貌で人柄もいい。モートは、たちまち恋心を抱くようになってしまうのだが……という話。

主人公を演じたウォーレス・ショーンは1943年生まれの80歳。髪は薄めの小柄なおじいちゃん。かわいい! 医師を演じたのは、だんぜん若いエレナ・アナヤ、48歳。

ウディ・アレン監督らしく、面白い工夫あり。カラー映画なのだけれど、主人公の妄想や夢の部分はモノクロで描写されている。わかりやすい。「明るくカラフルな映画」と書いたけれど、実はそれだけではない。「若さと老い」「生と死」というテーマも見え隠れする。ウディ・アレンは1935年生まれの88歳なのだもの。その歳でこんな面白い映画が作れるなんて。ありがたいことです。

そうそう、主人公のセリフの中で「イナガキ」(稲垣浩監督。『無法松の一生』『風林火山』など)や「クロサワ」(黒澤明監督)の名前が出てくるのも、うれしい。ウディ・アレンの映画愛の深さを感じずにはいられない。

『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

監督・脚本/ウディ・アレン
出演/ウォーレス・ショーン、エレナ・アナヤ、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、クリストフ・ヴァルツ 他

2024年1月19日より新宿ピカデリー 他 全国公開(スペイン、アメリカ、イタリア 配給/ロングライド)

© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.

※この記事は「ゆうゆう」2024年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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