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【片岡仁左衛門×坂東玉三郎】おしどり夫婦が37年間離れ離れになったら?【シネマ歌舞伎】『ぢいさんばあさん』が問いかけるものとは

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ゆうゆうtime編集部

原作は、森鴎外の同名の短編小説

『ぢいさんばあさん』の原作は、森鴎外の同名の短編小説です。
小説家としてだけでなく医学博士や官僚としても多くの実績を遺した森鷗外は、実は演劇界にもその多彩な才能の功績を遺しています。

明治維新による日本の近代化は演劇の分野にも及び、多くの文化人がこれに携わりました。鷗外は陸軍軍医として赴いた海外留学から帰国後文壇デビュー。小説やエッセイの執筆・西洋文学の翻訳に加えて西洋演劇の翻訳にも取り組み、日本演劇の近代化に大きな刺激を与えました。

一方で、幕末生まれの鷗外は江戸時代から続く「歌舞伎」にも精通していました。芝居好きの母と弟を持ち、特に弟の三木竹二(本名・森篤次郎)は歌舞伎好きで、開業医の傍ら劇評雑誌『歌舞伎』の編集と執筆を行い、歌舞伎批評の基準を確立した人物として知られています。幼いころから歌舞伎に親しみ、西洋演劇の知識もあった鷗外は自身でもいくつかの戯曲を遺しました。

「世にこんなロマンチックな小説があるだろうか」

但し、原作「ぢいさんばあさん」は戯曲ではなく短篇小説として書かれたものです。この文学作品に注目し、歌舞伎舞台化したのは「昭和の黙阿弥」との呼び声も高い劇作家・宇野信夫でした。宇野はこの作品に出会ったときの感動を、自身の著作について振り返った著書で次のように語っています。

「これは原稿にしたら、十枚たらずのものであろうが、世にこんなロマンチックな小説があるだろうか、と思った。珠玉のような作品というのは、これをいうのだろうと思った。短い文章のうちに、人の世の哀れ、人間の美しさがこれ程に滲み出ているものを、私はほかに知らない。」(「宇野信夫戯曲選集5(昭和35年、青蛙房)」より)

簡潔で洗練された原作小説に心打たれた宇野は、舞台作品として効果的な潤色を過不足なく加えて歌舞伎舞台化しました。昭和26年7月に初演以来70年以上歌舞伎ファンに愛される演目となり、現在も繰り返し上演されています。歌舞伎に親しみ、日本の演劇をより豊かなものにしようと取り組んだ森鷗外の文学作品が、後年劇作家・宇野信夫の手によって長年愛される歌舞伎作品に生まれ変わったのです。

原作との違いはいくつかありますが、特筆すべきは仲睦まじい夫婦がある事件をきっかけに離れ離れになった後、37年振りに再会する場面。これは原作小説にはなく、宇野が書き加えた場面です。初々しい若夫婦と年老いてからの夫婦を同じ俳優が演じ分けることで、時の流れの残酷さと夫婦の固い絆を視覚的に表現した、舞台ならではの名場面となっています。

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