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80歳・自分で片づける「家じまい」。きっかけは「娘に負担をかけたくない」という母親の深い愛情

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更新日

恩田貴子

「娘に負担をかけたくない」「自分の望む暮らしを送りたい」という一念から、家じまいを決意した池内美智子さん。愛着のある住まいを一人で片づけ、80歳でケアハウスへの転居を実現。そこには、「片づけは思いやり」という思いが息づいていました。(全3回の1回)

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【お話を伺ったのは】
池内美智子さん ●母・愛媛県在住、80歳
下村志保美さん ●娘・東京都在住、56歳

ぼんやりと考えていた「家じまい」。背中を押したのは娘への思い

今年の春、池内美智子さんは長年暮らした愛媛県内の一軒家を整理し、近くにあるケアハウスに移り住んだ。身の回りにあるのは、お気に入りのものだけ。自室のベランダや敷地内の菜園で、大好きな土いじりを楽しむ。

「部屋の入り口に、四季の花々と置物を飾る時間も楽しくて」。そう言ってほほ笑む美智子さんの顔は、晴れやかだ。

かつて、美智子さんには気がかりなことがあった。それは、「自分の死後、家や荷物の片づけで、娘に迷惑をかけてしまうのではないか」という、子をもつ親ならば誰もが抱える不安。そこにかかるお金や時間を想像し、つい先延ばしにしてしまう人も多い中、美智子さんは大きな決断を下す。それが「家じまい」だった。この大仕事と美智子さんはどう向き合ったのか。その道のりの一歩目は、今から十年前のある出会いから始まっていた。

80歳・自分で片づける「家じまい」。きっかけは「娘に負担をかけたくない」という母親の深い愛情(画像2)

建設業を営んでいた亡き夫のこだわりが詰まった、愛媛県内の旧宅。ケアハウスへの転居後、すぐ買い手が決まった。

人生の先輩に見つけた理想の「これからの暮らし」

家じまいについて最初に考えたのは、2015年。地域の包括支援センターでボランティアをしていたときのことだった。

「ひとり暮らしをしている90歳くらいの女性のお宅を訪ねたことがあったのですが、そのお宅が見事に片づいていたんです。タンスもなく、お布団も一組だけ。食器棚にあるのは数枚のお皿のみでした。それを見たときに『年をとったら、こうあるべきだ』と思ったんです。私もいつか、こんなふうに暮らしたいと。とはいえ一人でものを減らすのは大変。焦らず、ポツポツやっていこうかなと思ったのが最初でした」

ゆっくり始めた片づけがぐんと加速したのは、それから数年後。介護の末、最愛の夫を亡くしてからだった。夫の遺品を整理しながら、美智子さんは遠方に住む一人娘の志保美さんのことを思った。

「もし私がこの家とたくさんのものを残して死んだら、娘は一人で片づけをすることになる。娘にそんな負担はかけたくない。絶対に自分の手で家じまいをしよう。そう決めてからです、本格的に片づけを始めたのは」

この決断には、美智子さんの母親の存在も影響していたようだ。

「母は物持ちでした。でも亡くなる前に、身の回りをきれいに片づけてから旅立ったんです。それはもう、見事なものでした」

残される家族への負担を軽くしようとする、母の深い愛情。その無言の贈り物の記憶が、美智子さん自身の家じまいの原風景として残っていたのかもしれない。

80歳・自分で片づける「家じまい」。きっかけは「娘に負担をかけたくない」という母親の深い愛情(画像3)

お孫さんをだっこする若かりし頃の美智子さんと夫、父母。

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