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「娘に迷惑をかけたくない」【80歳・ケアハウスへの転居】家じまいののちの暮らしはどう?

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更新日

恩田貴子

「娘に負担をかけたくない」「自分の望む暮らしを送りたい」という一念から、家じまいを決意した池内美智子さん。愛着のある住まいを一人で片づけ、80歳でケアハウスへの転居を実現。そこには、「片づけは思いやり」という思いが息づいていました。(全3回の3回)

▼1回目はこちら▼

>>【80歳の家じまい実例】愛着のある住まいをたたもうと思ったきっかけとは?

【お話を伺ったのは】
池内美智子さん ●母・愛媛県在住、80歳
下村志保美さん ●娘・東京都在住、56歳

心軽やかに楽しむ、自分が選んだ今の暮らし

こうして家じまいの準備が整いつつあった24年の元日。能登半島地震が発生する。

「私が住んでいるのは、南海トラフ地震が起きたら大きな被害が出るといわれる地域。ですから能登半島地震のニュースは、ひとごととは思えませんでした。もし同じことが自分に起こったら、命が助かっても、倒壊した家を片づけて新しい住まいを探すことは、きっと私にはできません。家を売却し、ケアハウスに移るという具体的な行動に移ったのは、この地震がきっかけでした」

これを機に、本格的にケアハウス探しをスタート。インターネットで情報を集め、これはと思う施設には、見学のため足を運んだ。

「ケアハウス選びの条件は、それまで住んでいたところの雰囲気に似ていて、自然の多い場所にあり、いざというときも安心できるよう、介護施設が併設されていること。そして、それまでの生活圏とあまり変わらず、土いじりができることも重視しました」

入居を決めたケアハウスは人気が高く、1年待ちの状態。その間も美智子さんは庭木の伐採を進めるなど、家じまいのゴールに向かって着実に準備を重ねていった。

将来、娘に迷惑をかけなくてすむ。それが何よりもうれしくて

ケアハウスの居室の広さに合わせて厳選した愛用の品だけを携えて、引っ越しをしてから約4カ月。

美智子さんは、自ら選んだ場所で、望んだ暮らしを楽しんでいる。

「ものが少なくなったことで、暮らしが本当に楽になりました。これまで家のメンテナンスに使っていた時間を、すべて自分の好きなことに充てられるのも新鮮です。でも何よりもうれしいのは、『娘に迷惑をかけるかもしれない』という不安がなくなったこと。頑張ってよかったと、心から思います」

「一人で施設に入るなんてかわいそう」といった偏見が、今もどこかに残っているかもしれない。だが美智子さんは、ものを手放し、住まいを整えることで心の荷物を下ろし、暮らしを楽しむ時間の余裕を手に入れた。その姿は、家じまいが「終わり」ではなく、「これからの人生をより自分らしく生きるための始まり」なのだと教えてくれる。

家じまいを終えた今、「志保美さんに伝えたい言葉はありますか」と尋ねると、美智子さんは満面の笑みで答えてくれた。

「お母さん、ちゃんと片づけたから大丈夫よ」

それは、未来の娘に贈る何よりもやさしいメッセージ。美智子さんが長い年月をかけて準備してきたのは、娘の負担を少なくし、安心して自分の人生を歩んでいけるようにという母としての願いゆえ。その贈り物を志保美さんに手渡した今、美智子さん自身もまた、軽やかに、豊かに人生を楽しむという「もう一つの贈り物」を手に入れたのかもしれない。

「娘に迷惑をかけたくない」【80歳・ケアハウスへの転居】家じまいののちの暮らしはどう?(画像4)

旧宅から運んだ婚礼ダンスの上にはお気に入りの品々が。「額に入っているのは、夫が大切にしていた欄間なんですよ」

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