【松任谷由実さん】AIとの共生で生まれた“第3のユーミンの声”とは？ 夫・正隆さんとの“夫婦の対話”時間も公開！

松任谷由実『Wormhole / Yumi AraI』完成記念 PREMIUM試聴会＆トークライブ

53年にわたって音楽活動を続けてきたユーミンの40枚目のオリジナルアルバム『Wormhole / Yumi AraI』。本作のテーマは、時間や時空を超え、多次元世界をつなぐ「Wormhole（ワームホール）」。制作面では、最新のAI技術で生み出した“第3のユーミンの声”を取り入れた点が前例にない挑戦とのこと。果たして、第3のユーミンの声とは？　

トークライブでは制作プロデューサーの団野健さん司会進行のもと、ユーミン、夫であり音楽プロデューサー・編曲家の松任谷正隆さん、ミックスエンジニアのGOH HOTODAさん、そして音声合成ソフト「Synthesizer V（シンセサイザーブイ）」の開発者カンル・フアさんが登壇し、アルバム制作の舞台裏が明かされた。

第3のユーミンの声とは？

本アルバムの制作に使われている「Synthesizer V」は、歌詞とメロディーを入力することで、AIによって人間の歌声を作ることができるソフトウェア。今回のアルバムでは、荒井由実時代から現在に至るまでの膨大なユーミンの生の歌声をSynthesizer Vにラーニングさせ、“第3のユーミンの声”を再構築・合成。さらに今の歌唱法をデータ化したもので歌わせたという。

そんなアルバムの完成に、ユーミンは「キャリアを重ねてきたからこそテクノロジーに出会えて、今までのエッセンスをすべて注ぎ込むことができた私の最高傑作です」と笑顔で語った。

11月17日の東京・府中を皮切りに、全72公演に及ぶホールツアーが決定している。このライブを行うため、Synthesizer Vが作り出した音声を、「ライブで歌うために、再度、肉体に戻すような作業」をしているという。

「目下、ライブのリハーサルの真っ最中で、このアルバムを肉体に落とし込むのに先週ぐらいまで“どうしたらいいんだろう状態”でしたが、数日前にすとーんって体に入りまして。AIと共生できたという手応えを感じました」

なぜ、タイトルに「Yumi AraI」？

Synthesizer Vの使用から転じて、「Wormhole」（異次元をつなぐトンネル）というテーマにすることは松任谷正隆さんの提案だったというが、当初は「それは、難しい言葉だと思った」と話す。

「温度感としてWormholeは合っていたんですが、さらに何かないかなと迷っているうちに、Synthesizer Vをあらわすワードを松任谷（正隆）が見つけてきまして。『おい、お前の旧姓知ってるか？ 荒井はAとIに囲まれてるんだぞ』って。ダジャレのような、でもおぼしめしのように『Wormhole / Yumi AraI』と名前を変えたので、それで腑に落ちました」

ちなみに、アルバムリード曲「DARK MOON」、フジテレビ系ドラマ「小さい頃は、神様がいて」の主題歌「天までとどけ」、TVアニメ「伊藤潤二『クリムゾン』」OP主題歌「烏揚羽（からすあげは）」の3つの楽曲は、YouTubeで先行公開ずみ。これらの楽曲に対し、「新しいのに懐かしい」といった声が多く寄せられており、「これは制作側の狙ったところ」だと明かされた。

AIで作詞を試してみたものの…

結果的に、作詞作曲にAIは使わなかったというが、一度だけChatGPTで作詞に挑戦したそう。

「ChatGPTに『あなたは松任谷由実です』とコマンドを与えて作ってもらいました。これを世に出したら、人はそうだと思うかもしれないレベルでしたが、自分では全く興味のない内容になってしまって。新鮮味がないんですよ。この経験で、人の心を動かすのは人でしかできないという確信を得ました。日本語って特に行間とか間とか、それが音律と一緒になったときに、その隙間にたくさん情報があるんですね。それをAIはまだ学習できないと思います。AIと生身の人間の境界線を実感しました。ゼロイチは人間にしかできない。自分がなくなってしまったら飲み込まれてしまうので、自分がしっかり強くあることで、AIと共生できると思います」