【ブラッサム】「逃げんさい」自分のために生きろと背中を押した母(国仲涼子)の言葉。朝ドラ史に刻まれる旅立ちの名場面
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていたきます。作家・宇野千代をモデルに、明治・大正・昭和を生き抜いた葉野珠の人生を描く「ブラッサム」のレビューです。
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>>朝ドラ【ブラッサム】化粧が後押しした“初恋”と、珠(石橋静河)を待ち受ける理不尽な結末どんな噂を立てられても構わないと言って、寄り添ってくれた
作家・宇野千代をモデルとした主人公の人生を描くNHK連続テレビ小説『ブラッサム』の第4週「岩国と、共に」が放送された。
モラハラ父のもとで育った子ども時代から女学生へ、そして一度目の結婚、尋常小学校の代用教員となったものの同僚の男性教諭・島村(工藤阿須加)との噂が広まったことで退職することになるという波乱に満ちた運命に翻弄される主人公の珠(石橋静河)。その展開の早さからあっという間に4週目を迎えたという感覚とともに、これらがわずか3週に詰め込まれていたという濃密さにも同時に驚いてしまう。
比較的近い距離で大都市のように位置づけられる広島との対比は作中で何度か描かれていたりはするが、当時の岩国の街の実際の規模感はわからないが、島村との噂は、「逢い引きの先生」と、相当な範囲に広がっており、珠は新たな職を探そうとするも、あちこちで噂を理由にそれを断られ続ける日々である。
当時の生きづらさを感じさせる描写ではあるが、ネット、SNSによる声の増幅によってその地位や立場を追われてしまうことになる現代も、噂が誰かの人生をコントロールする存在であることは、形を変えて変わらぬものである。これは、昨年度の『ばけばけ』のヒロイン・トキが、ヘブン先生の〝ラシャメン〟ではないかという噂が立てられ、一時期生きづらくなったことを思い出してしまう。
結局、父の生家である本家の酒蔵で受け入れてもらうこととなる珠だが、興味本位でスキャンダラスなものに飛びつく人の噂は無責任であるゆえ残酷でもある。『ばけばけ』では人の噂も七十五日、次の話題が出て来れば興味はそこに移っていくものという流れであったが、珠の噂は静まる気配を見せない。小さな弟や妹は友達にからかわれ、外で遊べなくなってしまう。
そして、肝心の酒蔵もまた、珠の存在が疎まれ、取引を複数件停止されるという大きな影響が出てしまう。そのため、これ以上置いておくわけにはいかないと、縁者にすら冷たくあしらわれるという残酷な現実を突きつけられてしまう。人を好きになっただけ。ただそれだけのことかもしれない。不倫などモラル的によろしくない行為というわけでもない。しかし、噂の代償はあまりにも大きすぎた。
そこに至るまでの苦難の日々のなか、
「珠さん!」
と街角で声をかけた男性がいた。珠の最初の結婚相手・享一(小堀正博)の弟、保(金子大地)である。保は第三高等学校(現在の京都大学および岡山大学医学部)に通っており、現在帰省中なのだという。保は珠と兄のことも迷惑を被ったのは珠のほうだと詫びるばかりでなく、今の珠の噂も知っていたうえで声をかけたという、なんとも心の広い魅力を感じる青年だ。道ゆく男性に、「その女は危険人物でぇ」と囃し立てられても、自分は京都で暮らしていることだし、どんな噂を立てられても構わないとまで言ってくれ寄り添ってくれる。
この再会をきっかけに、保と珠は文通をはじめる。
「いつまでこういう日々が続くのか、、、こうして手紙を書いてゐる今だけ、やつと息がつける思いでおります」
気づけばこのように本音を文字としてしたためることのできる、母とはまた別の、気持ちの許せる貴重な存在へと便りを重ねるごとに変化していることがわかる。
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