私らしく生きる 50代からの大人世代へ

人気記事ランキング 連載・特集

松井久子さんが描く、75歳と86歳の恋愛と結婚『最後のひと』。実体験を踏まえて、美しくポジティブに

公開日

更新日

ゆうゆう編集部

人は、年をとっても幸福になる権利がある

「いい年をして」という世間の目、互いの肉体的な衰え、成人した子どものこと……葛藤もある。

「私たちの世代は、世間の目を気にしながら批判されないように生きてきたんです。それが顕著に表れているのが恋愛であり性であり結婚です。でもね、人生はたった一度きり。世間の目を気にして自分を抑えて生きるのはもったいない。人は年をとっても幸福になる権利があります」
 
実際、燿子は理一郎と共に生きることを決めた。
それは松井さんも同じだ。

「最初の夫と離婚して四十数年。孤独でも自由なほうがいい、とひとりで生きてきました。だから、でしょうね。『今さら結婚なんて。覚悟がいったでしょう』とよく聞かれましたが、そうでもないのよ。この年になると残された時間は少ない。つまり迷ってる暇はない。何より、この年になったからこそ人を見る目が磨かれ、『やっと自分にぴったりな人に会えた』とわかったのだと思います」
 
そして今、夫と、夫の娘夫婦と一つ屋根の下で暮らしている。
「料理が好きで、息子が独立してからは、ひとりで作ってひとりで食べてきました。今は4人で食べることが幸せ。ひとりで40年生きてきたから、今、家族がいるのはありがたい思っています。老いるというのは、自分にとっては未知の時間を生きるということ。味わい深いものだと思うんです。だから、老いたら老いたなりに自分をいたわりながら、慈しみたい人と暮らす。それが私の幸せです」と笑う。そんな松井さんが、理一郎と共に心豊かな時間を営もうとする燿子の姿と重なった。

「『私の人生はこれでよかったのか』と思っている人がいたら、『自分に正直に生きているか?』と自問してほしいです。自分はどう生きたいのか、それを見極めることが大事です」
 
そして、何歳になっても誰かを好きになってほしいという。

「夫婦で向き合って、お互いをもう一度、好きになることも含めてよ。ひとり身なら、誰かを好きになる気持ちにふたをしないでください。相手は韓流スターでも誰でもいいけれど、身近な人ならときめき度はより高くなります(笑)。人を好きになることは大きな希望を与えてくれます。誰かを好きになること、それ以上の特効薬はないと思います」
 
そう、人を愛することで社会からの「外され感」も老いへの不安も消えていった燿子のように。

著者プロフィール
松井久子
まつい・ひさこ●1946年東京都生まれ。早稲田大学卒業。雑誌ライター、テレビドラマのプロデューサーを経て、98年『ユキエ』で映画監督デビュー。2002年公開の『折り梅』は100万人を動員。21年、小説『疼くひと』を発表。

撮影/大河内 禎

※この記事は「ゆうゆう」2023年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

ゆうゆう 2023年04月号

人生の後半、最後の宿題ともいえる「ひとり問題」。孤独との向き合い方、ひとり時間の使い方、お金の不安、危機管理……。心配の種は尽きることがないけれど、ひとつひとつ、解決していきませんか。ひとり上手な人がやっていることは? ひとりの毎日を豊かに過ごすには? ひとり暮らしのトラブルを回避するには? 『ゆうゆう』4月号の特集「ひとりでも大丈夫!」では、ゆうゆう世代の「ひとり問題」を解決するヒントを総力取材。「ひとり」は辛いことでも侘しいことでもありません。ひとりを楽しみ上機嫌に過ごせたら、この先の人生はもっともっと楽しめるはず! 

詳細はこちら
この記事の執筆者

PICK UP 編集部ピックアップ