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養老孟司さんが説く『ものがわかるということ』。わかった気になっていることのなんと多いことだろう!

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ゆうゆう編集部

わかろうとして考え続けると世界が広がっていきます

「『土を育てる』という本に、最近アメリカでは1割の畑は耕さないと書かれていたんです。じゃがいもの種芋を地面に置いて、その上に枯れ草をかけておくだけ。でも、収穫期に枯れ草をよけるとじゃがいもが育っているというんですよ。つまり水や日光など必要なものさえあれば、穴を掘って埋めて土をかぶせてと、額に汗して耕さなくてもひとりでに育つ。子育てもそうです。

でも、日本人だけかもしれないけれど、努力したものでなければ価値がないと考える人は多いですね」

日本には昔から「なるようになる」という文化があった。しかし、戦後の高度成長期を経て、経済効果と成長のための努力でのみ測る、「偏ったものさし」しかもたない人が増えてしまったようだ。

「日本は、GDPで見ると確かに発展していないけれど、その間、炭酸ガスを排出せずに地球環境問題に貢献してきたともいえます。そういう『ものさし』だってあるはずなんです」

そんな養老さんから、自分らしさがわからないと、自分探しをしている人へひとこと。

「自分とは創るものであって、探すものではないですよ。そしてみんな昨日とは違う今日の自分を生きているのだから、すでに日々自分を創っているんです。人生は作品です。それぞれが与えられた絵の具とキャンバスで絵を描く。そこにどういう絵を描くかでしょう。誰の役にも立たないし、GDPにだって一文も貢献しないかもしれないけれど、そこにあなたという人ができます」

他人が自分を理解してくれない、苦手な人がいる。そんなふうに人間関係がわからなくなっている人へは?

「相手を理解できなくても、衝突しなければいいだけです。どんな人がいようと、いるものはしょうがないと思えばラクです(笑)。そう思う余裕が大事です。

人疲れしたときは、人間社会のものさしが一切通用しない自然に親しむことですね。人間でないものを相手にしてみるといい。僕の理想は、外へ出たら鳥が頭にとまるようにならないかなということなんです。永平寺で長年修行をされた南直哉(じきさい)さんに伺ったのですが、座禅をしていると、初めの頃は寺に入ってくる野良猫が遠回りして逃げていたのに、修行が進むと自分を踏んで通るようになったというんです。いいな、そんな境地になりたい」

そして、養老さんは言う。
「わかろうと考えても答えは出ません。それでも考え続けると、世界が広がっていきます」

著者プロフィール
養老孟司
ようろう・たけし●1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。62年、東京大学医学部卒業。89年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。2003年『バカの壁』が450万部超の大ベストセラーに。幼い頃から大の虫好きで、現在も昆虫採集・標本作成を続ける。

撮影/津田 聡

※この記事は「ゆうゆう」2023年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

ゆうゆう2023年06月号

年齢を重ねると、友達との話題はもっぱら体のこと……。血圧や血糖値、コレステロールなど、若い頃は気にならなかったことが増えてきます。『ゆうゆう』6月号、今月の特集は「見逃してはいけない体の不調」。ゆうゆう世代がぜひチェックしておきたい健康診断の数値のこと、体調を司る自律神経のこと、人には聞けないフェムゾーンの悩みのことなど、今、知っておくべき体のことを全力取材しました。健康は、何にもまさる人生の宝物。自分のためにも身近な人のためにも、健康をしっかり守りたいですね。

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