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【ブギウギ】無言なのに複雑な感情を手に取るように感じさせる草彅剛の表現力は見事だ

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田幸和歌子

【ブギウギ】無言なのに複雑な感情を手に取るように感じさせる草彅剛の表現力は見事だ

「ブギウギ」第120回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。毎朝、スズ子に元気をもらえる「ブギウギ」もあと1週となりました。より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★

【ブギウギ】人情刑事モノの第24週。高橋(内藤剛志)が差し出す特上カツ丼に犯人号泣

趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第25週「ズキズキするわ」。昭和31年、『東京ブギウギ』の大ヒットから9年「ブギブームも下火になりつつありました」(ナレーション)と、スズ子の人気歌手としてのピークを超えた感も漂うところに、新たな若い才能が現れる。

水城アユミ(吉柳咲良)、おなじみゴシップ誌も「これからは水城アユミの時代! 福来スズ子の時代はもう終わり」とあおる。この水城のモデルとなった人物は誰なのか。年代的にもその才能的にも、戦後歌謡を語るにあたって欠かすことのできない歌手・美空ひばりがまず思い浮かぶだろう。しかし、服部良一をモデルとした羽鳥善一(草彅剛)や、淡谷のり子をモデルとした茨田りつ子(菊地凛子)と違い、水城のモデルについては明示されていない。

この週のストーリーで大きな舞台となったのは、『紅白歌合戦』のような位置付けの年末恒例の大型歌番組『オールスター男女歌合戦』。スズ子はトリとしてオファーを受けるものの、スズ子のひとつ前に水城を歌わせ、「新旧対決」を意識した話題性をねらいたいという。ここで登場したのがUSK時代の同僚「股野はん」こと股野義夫(森永悠季)だ。20年近い感動の再会に大盛り上がりのスズ子だが、股野はなぜスズ子の前に現れたのか。

股野は実はアユミのマネージャーで、そしてアユミの父であるという。股野が父親ということは、アユミの母はスズ子の憧れであり目標であった先輩・大和礼子(蒼井優)。大和先輩のDNAを継ぐ者が、新たな才能として登場するのだ。この運命的でドラマチックな設定は、美空ひばりをそのままなぞったキャラクターでは成立せず、両親の設定からはむしろ江利チエミとの相似が見える。

さて股野は、歌合戦でスズ子の代表曲のひとつ「ラッパと娘」を、スズ子に憧れて育ってきたアユミに歌わせてほしいとお願いする。

「ラッパと娘」は、「スウィングの女王」と呼ばれるきっかけとなったスズ子にとって大切な曲。それを伸び盛りで注目度の高いアユミに歌われたら……スズ子は動揺し、羽鳥に相談するが、「ラッパと娘は君と僕の歌なんだよ。あの歌は君が歌ってこそ完成してるんだ」そして、自分が許可したらそれでいいのかと、羽鳥も苛立つ。

そんなスズ子に「比べられるのがこわいだけじゃない」「向こうは右肩上がりのイキのいい若手、あなたは人気も声も落ちてきたロートル」と鋭い指摘をしつつも、以前のアナタなら楽しくて大喜びしたのでは、ワクワクしたのではと、彼女らしい言い方でスズ子を目覚めさせるのがりつ子だ。モヤモヤしていたスズ子の心にようやく火がつく。最大のライバルであり最大の理解者であり続けるりつ子の存在は本当に大きい。

自分の大事な歌をどう料理してくれるのか、それこそがワクワクではないか。これまで何度も述べてきた少年マンガ的空気がさらに極まったかたちだ。スズ子、再生。ライバルが気高く強くあってくれないと、りつ子だってつまらないのだろう。その微笑みがそう物語っていた。結果的にアユミはスズ子の再生装置とも言える存在になった。ひばりそのままでないキャラクター、史実を変える必然がそこにもあったのである。
「ズキズキワクワクしてきたんですわ!」

思いを熱く語るスズ子を見つめるうちにみるみる目の光が強まり口角が上がっていく羽鳥、無言なのにそれが強く伝わってくる。これまでの苛立ちやショック、複雑な感情が手に取るように感じさせる草彅剛の見事な表現力だ。
「ズキズキワクワクしてきたんですわ」

最後まで羽鳥とりつ子の存在がヒロインとストーリーを引っ張っていくドラマだ。

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