【中野翠のCINEMAコラム】800kmもの距離をノラ犬とともに歩いて旅する理由とは?『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』
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中野翠
ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト・中野翠さんが、おすすめ映画について語ります。今回は、ベストセラー小説が映画化された『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』。スクリーンに広がるイギリスの美しい風景も見ものです。
歳をとっても、やっぱり男は男で女は女なんだなあ……と、ほほえましく思わずにはいられない。そこが、面白い味わいどころになっているイギリス映画です。
物語の主人公であるハロルド(ジム・ブロードベント)はビール工場を定年退職して、妻のモーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と郊外でおだやかな引退生活を送っていたのだが……ある日、一通の手紙が届く。同じ職場で働いていた女性社員・クイーニー(リンダ・バセット)からの手紙で、難病のガンのために余命わずかの「お別れの手紙」なのだった。
ハロルドは驚きながらも、何と返信したらいいのか迷い、ごく簡単に「どうかお大事に」とだけ手紙に書いたものの、それを投函する気持にはなれない。たまたま、ガソリン・スタンドの売店の女性店員の「信じる心で、伯母のガンがよくなった」という体験談を聞いて、ハッとする。すぐに病院に電話して「今から歩いて会いに行く。それまで生きていてくれ」と伝言し、そのまんま、800km先のクイーニーが入院している病院へと向かう。
800kmと言ったら、東京から広島あたりまでの道のりではないか? いくら何でも遠すぎる?! クレイジー!妻のモーリーンがいい顔をしないのも当然だろう。そう思いつつも、ジーッと観てしまう。
旅の途中で出会う人たちとのドラマ。さらに、追い払っても、ついて来るノラ犬(これが薄茶の体に両耳だけ黒という愛らしさ!)が相棒に――。さらにさらに、ハロルドの旅の様子が新聞の一面に掲載され、さらにTVのニュースにもなり、いつのまにかハロルドとノラ犬の道中を追う人びとが続々と出て来た……。そうまでしてクイーニーに会うには、ある理由があったのだ……という話。
イギリスの、べつだん名所でも何でもない町や村の様子(マッカな郵便ポスト、緑豊かな丘、古くからの町なみ……)も見どころ。
監督/へティ・マクドナルド
出演/ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン 他
6月7日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋他 全国公開
(イギリス 配給/松竹)
© Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022
さて、5月31日から公開される『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』、必見です。’60年代後半のザ・フォーク・クルセダーズ。その輝きがよみがえる!
※この記事は「ゆうゆう」2024年7月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。
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