【べらぼう】十代将軍・徳川家治（眞島秀和）は毒殺されたのか？

ＮＨＫ大河ドラマ『べらぼう』第30回「人まね歌麿」と第31回「我が名は天」が放送されました。第31回では、眞島秀和さんが演じる十代将軍・徳川家治の死にまつわる陰謀が描かれました。今回は、家治の死に至るまでの背景を取り上げたいと思います。

徳川家治、松平定信、一橋治済の関係性は？

十代将軍・徳川家治は、天文2年（1737）に生まれました。渡辺謙さんが演じる享保4年（1719）生まれの田沼意次（おきつぐ）より18歳年下、寛延3年（1750）生まれの蔦重より13歳年上となります。

家治の父は、九代将軍・徳川家重（いえしげ）です。家重は八代将軍・徳川吉宗（よしむね）の長男なので、家治は吉宗の孫にあたります。吉宗は孫の家治を可愛がり、また期待を寄せていたようです。膝に抱き、将軍としてのあり方を教えたといいます（福留真紀『徳川将軍の側近たち』）。

なお、井上祐貴さんが演じる松平定信（さだのぶ／吉宗の次男・宗武［むねたけ］の子）も、生田斗真さんが演じる一橋治済（はるさだ／吉宗の四男・宗尹［むねただ］の子）も吉宗の孫で、3人は従兄弟同士の関係にあります。宝暦8年（1758）生まれの松平定信は家治よりも21歳年下、宝暦元年（1751）生まれの一橋治済は14歳年下です。

また、家治の将棋の実力はなかなかのもので、詰将棋の書である『将棋攻格』を著しています。田沼意次も四段を許される腕前だったので（以上、後藤一朗箸　大石慎三郎監修『田沼意次　その虚実』）、ドラマでも描かれたように、二人で将棋を指すことがあったのかも知れません。

大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」第32回より　©NHK

知保の方は田沼意次の妾の知人

家治の正室（御台所）は、宝暦4年（1754）、数えで18歳の時に迎えた閑院宮直仁（かんいんのみやなおひと）親王の娘・五十宮倫子（いそのみやともこ）です。倫子は家治より1歳年下でした。

家治と倫子は大変に仲睦まじかったといいます。2人の間には、宝暦6年（1756）に長女の千代姫が、宝暦11年（1761）に次女の万寿姫（ますひめ）が誕生しました。ですが、千代姫は2歳で、万寿姫は13歳で死去しています。

側室に、高梨臨さんが演じるお知保（ドラマでは知保の方）と、公家・藤井兼矩（かねのり）の娘であるお品がいます。お知保は旗本・津田信成の娘で、田沼意次の妾の知人でした。意次はその縁を利用してお知保に取り入り、大奥へ賄賂を贈ったといいます（竹内誠・深井雅海・松尾美恵子『徳川「大奥」事典』）。

お知保は宝暦12年（1762）10月、奥智哉さんが演じた徳川家基（いえもと）を産みました。ですが、家基は正室である倫子に託されることになります。

お品は倫子が輿入れのため京から江戸に下る際に随行し、江戸大奥に入った女中です。お品も宝暦12年12月に貞次郎という男児を出産しましたが、貞次郎は翌年に亡くなってしまいました。お品自身も安永7年（1778）に没しています。

一橋治済の子・豊千代を養子に

4人の実子の中でただ一人残った家基に、家治は大いに期待を寄せていました。明和8年（1771）8月、正室の倫子が34歳でこの世を去ると、お知保が大奥の最上位に位置づけられ、絶大な権勢を振るったといいます。

このまま何事もなければ家基が十一代将軍になったのでしょうが、ドラマでも描かれたように、家基は安永8年（1779）、18歳の若さで急死してしまいました。

その後、家治は養子を迎える決意をし、田沼意次に選定にあたらせています。意次が選んだのは、一橋治済の子・豊千代（のちの十一代将軍・徳川家斉［いえなり］。以後、家斉と表記）でした。

実は意次と一橋家には深い繋がりがありました。よって、意次が家斉を選んだのは一橋家との関係の深さが一因とも、自分が選定した将軍となれば、家斉の時代も引き続き権勢を手にできると考えたとも推定されています（安藤優一郎『田沼意次　汚名を着せられた改革者』）。治済と意次に都合がよい結果のため、二人が共謀し、家基を毒殺したともいわれています。