意外な友情が続く!?認知症の母と90代友人の絆【認知症母との介護生活#71】
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
母が出た電話の相手は?
3階建ての 我が家は
どの階でも 電話が取れるように
1階に 親機
2階 3階に 子機を
設置してる
電話がかかってくると
私が取るより 先に
別の階で
母が出ることが ある
今どきは
詐欺等の迷惑電話も 多いので
もちろん 迷惑電話防止装置を
つけてはいるけれど
それでも 完全に
防ぎきれるものでは ない
母には
電話は 私が出るから
おかあさんは 絶対出ないでね
と
いつも いつも 言っている
ん ・ だ ・ け ・ ど
そのことを 忘れてしまうのが
認知症
マンガに描いたように
その日も 母は
かかってきた電話に
出てしまったのだった
20年ほど前まで
友だちの多い 母の
コミュニケーションツールは
電話だった
今みたいに
SNSは なかったので
お友だちと
出かける約束をするのも
お悩み相談をするのも
全て 電話だった
母には
そんな記憶が 残っていて
電話のベルが鳴ると
つい 出ちゃうんだろう
幸い
その日の 電話の相手は
母の友人だったようで
私が 階下に下りてきてからも
しばらく
親しげに 相槌を打ったり
楽しげに 笑ったりして
話は 続いていた
93歳認知症の母に
電話をかけてきてくれる
そんな 奇特な人は
多くない
母と話したい
と 思ってくれて
電話をかけることが できて
且つ
昔の思い出話を
母と共有できる人に 限られる
昔の話なら
母にも まだ記憶が残っているので
そこで 少しは
会話が 成立するからね
そんな 高いハードルを
超えられるのは
今や せいぜい
ひとりか ふたり
電話の相手は Aさんかな
もしかしたら Bさん?
母の話す声を
私は
聞くとはなく 聞きながら
そんなことを 考えていた
すると その会話が
久しぶりに 会いたいわねえ
老い先 短いんだし
今 会っておかないと
と
急に 盛り上がり始めた
でも 電車は
駅に階段もあって 大変だし
あんまり長くは 歩けないし
と 今度は 盛り下がり
その話が 途切れそうになった
その時
母が 突然
じゃ 私
娘に頼んで
そっちに 連れて行ってもらうわよ
な~んて 言い出した
そして 相手に
期待を持たせるような 言葉を
続け
母は 電話を切ったのだった
私は
その 直後
マンガには 描かなかったけど
おかあさん
Aさん家は
行くとしたら 一日がかりよ
Bさん家だったら
それよりは 少し近いけど
でもやっぱり 遠いわよ
と 暗に
行く なんて
気軽に約束されても 困る
ということを
母に伝え
で
今の電話の相手は 誰だったの?
と 聞いてみた
すると
母は
人差し指を 顎に当て
小首をかしげて 言った
え…わかんない
誰だったのかしら
誰だったのかしら
誰だったのかしら
え…
相手が 誰だか わからなくて
あんなに長電話
しかも
親しげに 楽しげに
そんなこと
フツーは できないよ
そんな 常人離れしたスキル(?)
に 驚愕しつつ
私は
おかあさん
誰か わからないなら
約束なんかしないでよ
相手の方は
期待して 待ってるわよ
と 返したのだけど
それに対しての
母の言葉は
想像の 斜め上をいった
いや 冷静に考えれば
想定内だったはず
ああ 私
まだまだ 修行が足りない
えっ 約束?
なんのこと?
私
約束なんて してないわよ
私は
電話機に残っている 番号から
相手が Aさんであることを
確認した
そして Aさんが
母の約束の言葉を
どんな風に 受け止めたのか
その後 ずっと
気になっていた
後日
母が デイホームに
行っている間に
Aさんから
電話がかかってきた
ああ おかあさんは 今日は
デイホームの日だったわね
うっかり 忘れていたわ
そう言う Aさんに
私は 遠回しに
過日の 約束のことを
聞いてみた
Aさんは
全然 覚えていなかった
この歳になるとねえ
話したこととか
み~んな 忘れちゃうのよね
そう言って
ホホホ…と笑った
私は
Aさんが
母の言葉に
まったく こだわっていないことに
ホッとした
そして 思った
Aさんは
認知症ではない
それでも
同じ年に 生まれて
同じだけ 時を重ねる間に
同じように 老いてきて
その暮らしの中で
大切なことは
おそらく
コスパとか タイパとか
有言実行とか 初志貫徹とか
そんな
頑張るようなことでは 全然なくて
昔 同じ時を過ごしたひとと
若い頃を 振り返る
今は
そんな
まったりと 懐かしい時間を
過ごすことなのかも
だとしたら
私は
Aさんと 母との関係に
かすかな希望が 見えた気がして
思わず
神さまに祈った
4分の3世紀以上 紡いできた
ふたりの友情が
これからも
一日でも 長く
続きますように
▼次回はこちら▼
>>【認知症母との介護生活#72】ズロース事件から学ぶ母との向き合い方。家族だからこそできる受け止めとは?▼前の話はこちら▼
>>蟻に「ありがとう」?汚れ物から見つけた認知症母の病気の兆し?【認知症母との介護生活#70】▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼
>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】