【認知症母との介護生活#72】ズロース事件から学ぶ母との向き合い方。家族だからこそできる受け止めとは?
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
猛暑にまさかの冬服フル装備の母
母が デイホームに行く日の
私の
朝の ルーティン
母に ご飯を食べさせている間に
補聴器 マスクの準備
連絡帳の記入
バッグの中身の 点検
バッグには 毎日
きれいなのか 汚いのか
よくわからないティッシュが
何故か 山のように 入ってるので
ゴミ箱に直行させる 前に
それらで 母のテーブルの下の
食べこぼしを ちょちょっと拭いたり
主婦だなあ 私
そして 何より
私の
最重要ミッションは
母の着ている服の チェック
記録的な猛暑なのに
母は この夏中
長袖の服が お気に入り
それでは さすがにマズイ と
涼し気な半袖の服を 手渡すと
私は 南国育ちだから
暑いのは平気なのよ
と言いながらも
素直に 着替えては くれる
その時 母から受け取る
脱いだ服は
いつも じんわりと湿っていて
そりゃ そうだろう
いくら 南国育ちだって
暑ければ
体は 汗をかく
でも おそらく
暑さ 寒さを感じる 感覚が
鈍くなっているんだね
そして
季節や 常識を測る
感性も
先日の朝
母が 自分でコーディネートした
服は
ヒート◯ックのシャツに
ニットのベスト
その上に
ドレープのたっぷり入った
スモック風半袖ブラウスだった
私は
下の2枚を 脱がせ
サラ◯ァインの下着と
再度 スモック風ブラウスを着せて
母が 不安にならないよう
薄手のサマーカーディガンも
渡した
すると 母は
すぐ それを着て
いつも そうするように
カーディガンのボタンを
上から下まで 留め始めた
ただでさえ 立派なお腹周りに
下着 ズロース ズボン
ドレープたっぷりの スモックブラウス
ボタン全留めカーディガン
という
ミルフィーユ状の 新たな層が形成され
さすがに きつく感じたんだろう
母は
なんか 苦しい…
と 言い出した
でも
私は そんな母の言葉を
完全スルー
だって
お迎え時間が 近づいている
ほら 早く 早く
母を急かしながら
玄関の外に 出ると
幸い
まだ車は 来ていなかった
ホッとしながら
足元に目をやると
夜の間に落ちた葉っぱが 目に入る
すかさず 箒で掃き始める
主婦ぷりん
エライ
加えて 私は
掃きながらも
子育て中のママ 同様
目の端には いつも母を入れている
だから
その時
母の 不審な動きに
体が 即 反応し
私は 振り返った
なんと
その視線の先には
ズボンを 膝まで下げ
下半身は ズロース1枚
そして
お腹周りのブラウスや
カーディガンを整えるのに
夢中になっている 母がいたのだった
狭い我が家は
玄関から 公道までの距離は
2メートルあまりしか ない
しかも
門も 壁も ない
しかも
その公道は
朝夕 結構 人が通る
つまり
母は
何人もの通行人の 眼前で
ズロース姿を
晒したのだった
おかーさん!
叫びながら 母に駆け寄り
私が そのズボンを上げたところで
デイホームの車が
到着した
なんか ごろごろするのよぅ
と
まだ お腹のあたりを気にする
母の手を 引っ張りながら
いいから!
早く乗って!
そう言う 私の言葉は
思ったより キツい口調だったのか
スタッフの目線が
一斉に 私に向けられた
私は 咄嗟に 手で口を隠し
愛想笑いを浮かべ
車が走り去るまで
にこやかに 手を振った
けど
頭の中は ずっと混乱していた
だって ショックだった
母は 最近は
足が外側に 大きく変形して
姿勢も 悪くなっていた
それは 老化だ
仕方ない
夏物と 冬物
部屋着と おしゃれ着
インナーと アウターの
区別もつかなくなっている
それも 認知症あるある
受け入れるしかない
だけど
これも 突き詰めれば
認知症あるある で
いつかは訪れること
だったんだろうけど
ついに
衆目の中で
ズボンを下げてしまった
あんなに オシャレで
華やかで
頭の回転が 早くて
活動的で
いつも
人の輪の 中心にいたような
母が
そんなイメージを
自らの手で
破壊してしまった
その日
思い出したことがある
いつだったか
友人Aちゃんが 話していたこと
認知症の母がね
徘徊してしまって
近所を 探し回ったことが
あったのよ
しばらくして
知り合いが 見つけてくれて
無事 帰ってきたんだけど
その時にね
なんと
下半身が
スッポンポンだったの!
まったく 恥ずかしいったら!
そう言って
彼女は 大きくため息を付いて
みせたのだった
その時 私は
Aちゃんの話が 面白おかしかった
(ように聞こえた)ので
ああ
Aちゃんも たいへんだなあ
と思っただけで
彼女の 心の中にまでは
思いが至らなかった
あの時
Aちゃんの 本当の気持ちは
どうだったのかな
その日は
そんなことを 考えて
ため息ばかりの
なんだか 哀しい午後だった
夕方
母は
いつもどおり 満面の笑顔で
帰ってきた
今日も 楽しかったわよ
と言いながら
デイホームの連絡帳を 私に渡し
トイレに駆け込んだんだけど
その中からは
ゴキゲンな歌声まで 聞こえてた
わかってはいたけれど
母の中では
朝の あの恥ずかしい記憶は
きれいさっぱり 消去されていた
私は
少し 脱力しながら
受け取った連絡帳を 開いた
そこには
今日は〇〇さん(母)から
「寒いので 膝掛けがほしい」
と言われ お貸ししました
お気に入りの膝掛けがあれば
明日から お持ちください
と書いてあった
夏に 膝掛け!?
それを読んで
最初は ビックリしたんだけど
後から
もしかして これって
母が考えたり やったりすることを
頭ごなしに
おかしい とか
間違っている とか
否定せずに
今あるがままの母を 認めて
受け止めてくれている
ってことじゃない?
と思い至った
さすが 介護のプロだな
と思った
眼の前で
屈託なく 鼻歌を歌い続ける
母を 見ながら
今あるがままの 母を
受け止める
私は
その言葉を 何度か
口に出して 言ってみた
今あるがままの 母を
受け止める
今あるがままの 母を
受け止める…
母は
デイホームが 大好き
とよく言うけど
それは きっと
母の あるがまま を
受け入れてくれているから
だとしたら
私も
ミルフィーユ状態で
出かける母も よし
人前で
ズボンを下げる母も よし
それを 全部忘れる母も
よし
そういう風に 受け止めてみよう
そう 思った
デイホームで 遊び疲れて
うたた寝し始めた 母の寝顔は
なんだか とてつもなく
かわいかった
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