【認知症母との介護生活#76】母が忘れた記憶を、娘がそっと引き受ける——「じゃあ私が覚えとくね」が切ない
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
母の記憶を娘が守る散歩道
先日
デイホームのない日
母は
朝から 窓際に陣取って
今日は 太陽が さんさんと照って
いい天気ね~
外は 気持ちよさそうね~
と 窓を開け
風を顔に当てながら
女優風に
室内にいる私を 振り返って
ひとりごちていた
ま つまり それって
お散歩に連れてけ
ってことなんだけどね
そういうわけで
私は
母を 車椅子に乗せて
川沿いに 住宅街を歩く
いつものコースを
お散歩していた
しばらくして
今は マンションになっている
かつて ハネちゃんが住んでいた
アパートがあった 場所に
差し掛かった
私は
母に 聞いてみた
おかあさん
ここ 昔
何が建ってたか 覚えてる?
母は この日
大分 頭がくるくるで
言葉が出ず
私の質問を
華麗にスルーした
忘れちゃった?
ハネちゃんだよ
福島出身の やさしいおじさんだよ
母
再度 華麗にスルー
でも 私は 言い続けた
そっかあ…
まあ いいや
私が覚えてるから
だって
どうしたって 忘れられない
忘れっぽい私でも
この道を通る度に 思い出す
3月11日が来る度に 思い出す
シャイで やさしくて
全然イケてないけど
誰よりもきれいな心根だった
ハネちゃんのこと
皆 それぞれに
それぞれの3月11日が
あると思うけど
あの日
東京の家にいて
特段 物が落ちて 怪我した
といったことも なかった私は
被災者では ない
でも
あの日
震源地近くで
何が 起こったか
何が 間違っていたのか
これから どうすればいいのか
考えるのは 大切なこと
私は
ハネちゃんとの思い出を 通して
あの日のことに 思いを寄せる
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