【ばけばけ】蛇と蛙の阿佐ヶ谷姉妹の掛け合いにクスッ。この脱力感こそ令和の朝ドラか
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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【ばけばけ】朝ドラ恒例のダメ父、かわいいウサギがシュールな展開…悲惨なのに笑える斬新な演出がいいそこはかとないあたたかな幸福感
日本の怪談を研究しさまざまな作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と、その妻セツをヒロインとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第2週「ムコ、モラウ、ムズカシ。」が放送された。
本作に漂う、そこはかとないあたたかな幸福感。その空気へと毎回自然に誘ってくれるのが、ハンバート ハンバートによる主題歌「笑ったり転んだり」の存在も大きな要素になっているのではないだろうか。
おだやかなテンポで届けられるアコースティック調の男女デュオの楽曲、そして曲に合わせて流れる松野トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)の本作主人公のふたりの笑顔。川島小鳥による夫婦役の二人の写真が曲調とのハマり具合も抜群で、その写真の二人を見るだけで自然と笑みがこぼれる。
メロディだけでなく、ハンバート ハンバートが実の夫婦によるデュオであるところもまた、その距離感が自然とあたたかさを滲み出す要素となっているのかもしれない。気づけばどこかおだやかな気分になり(特に朝の放送により強く感じる気がするが)、前述した「そこはかとないあたたかな幸福感」漂う作品世界に誘ってくれるオープニングだ。
主題歌をはじめとして、今のところ本作に漂う空気は、どこか脱力感もある「ちょっとした笑い」、そして夫婦や家族の関係性が生み出す「あたたかさ」だ。これは、怪談というおどろおどろしくなりかねない要素とのバランスをとるねらいかもしれないが、〝蛇と蛙〟として阿佐ヶ谷姉妹が軽快な掛け合いでツッコミ混じりに届けてくれる語りをはじめ、家族の掛け合いなど、細かなところで爆笑というよりも、クスッとさせられる場面が多い印象だ。
やりすぎない「ちょっとした笑い」は、怪談とのコントラストばかりではない。第1週は、「御一新」による大きな世の中の変化にうまく対応できず、ある意味没落した上級武士であるトキの父・司之助(岡部たかし)と祖父の勘右衛門(小日向文世)、そしてその妻たち。武士の誇り、御一新前の時代を引きずりながら、今なお髷を落とせなかったりする。一発勝負をかけたウサギの飼育ビジネスは、その暴落により多額の借金を背負う。
そして、架けられた「橋」によって隔てられた、遊女などが働く下層の世界のように描かれた世界。そこにトキたち松野家の一家が移り住むことになり、借金のため司之助は牛乳配達、母のフミ(池脇千鶴)は内職、そしてトキは小学校を辞め織子として働くことになるという、ややハードな展開だが、そこもまたそれぞれの飄々としたキャラクター、そして阿佐ヶ谷姉妹の語りで重苦しさをあまり感じずどこか笑ってしまうというつくり、これらが「ここ笑うところですよ」という押し付けを感じさせることなく届けられるところは、令和の朝ドラといったところだろうか。
