【ばけばけ】朝ドラ恒例のダメ父、かわいいウサギがシュールな展開…悲惨なのに笑える斬新な演出がいい
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
「蛇」と「蛙」は阿佐ヶ谷姉妹
日本の怪談を研究し、『耳なし芳一』をはじめとするさまざまな作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)。その妻であったセツをヒロインとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の放送がスタートした。
多くの人が知る作品に関連する人物とその妻という構図は、前作『あんぱん』と共通するものがあるが、作品の導入は『あんぱん』と同じように、ヒロインの松野トキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)に『耳なし芳一』を語り聞かせるという、代表作を感じさせるところからスタートした。
ラフカディオ・ハーンは妻のセツから聞いた数々の怪談を書籍化したとされるが、それを思い起こさせる場面であるとともに、後年の夫婦の仲睦まじい様子がそこにあり、微笑ましい気分で作品世界に誘ってもらえる気分だ。
トキが言った「たちまち」の意味が分からなくて尋ね、「instantly」と訳してあげ、そんなトキの話に「スバラシイ」「アリガトウ」と、ややたどたどしい日本語で感想を述べるヘブン、そして二人の笑顔という演出だけで、その良さはよく伝わる。
そんな二人の雰囲気と頬にキスする様子に思わず「仲良しなんだからぁ」と主観混じりでツッコミを入れ、しかもそれを「蛇」と「蛙」という役回りから軽妙なナレーションを展開するのは阿佐ヶ谷姉妹だ。
変化に対応できる人・できない人
そんなふうに始まった第1週「ブシムスメ、ウラメシ。」は、冒頭のトキが「では、わたし、トキの話を……」という言葉のあと、そのサブタイトル通り〝ブシムスメ〟であったトキの少女時代に時代と場面が移る。トキも子役の福地美晴にいったんバトンタッチだ。
舞台は明治初期の島根・松江。かつて上級武士だったトキの父・司之助(岡部たかし)と祖父の勘右衛門(小日向文世)は、明治維新によって新生活も軌道にのらず、髷もまだ落とさないまま武士の時代を引きずったままだ。そうなると、トキたち一家の生活も苦しいものである。トキの同級生にもからかわれる始末だ。
時代の大きな転換点。多くの人の運命も変わり、時代に乗れる人、乗り損ねた人、それぞれの人生とともに待ち受ける人生がある。その象徴のように、川の橋の向こう側の世界が描かれている。トキたちが暮らす世界と川の先は、すぐそばであるはずなのに別世界、ひとたび橋を超えると、そこは身売りされ遊女として働かされることになった女性たちや、何かの事情で捕らえられた人たちが送られる場所、ある種の「恐ろしい」場所であることが強烈に印象づけられていた。
変化に対応できない司之助たちと対照的に、松野家の親戚である雨清水家の傳(堤真一)は髷を切ってザンギリ頭となり、織物工場を始めるという対応をみせる。どこかネットの発展、さらにはAIの進出によってますます大きく時代が変わろうという現代の仕事環境への対応ができるひと、できないひとが重ね合わされるかのようでもある。
