【べらぼう】蔦重(横浜流星)は「身上半減」で何もかも半分にされたのか? 京伝(古川雄大)が書いた洒落本の内容は?
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鷹橋 忍
横浜流星さんが主人公・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/蔦重)を演じる、2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめものがたり)〜」。当時の文化や時代背景、登場人物について、戦国武将や城、水軍などに詳しい作家・鷹橋 忍さんが深掘りし、ドラマを見るのがもっと楽しくなるような記事を隔週でお届けします。今回は蔦重に下された処分「身上半減」と、それに至った書物の内容についてです。
NHK大河ドラマ『べらぼう』第38回「地本問屋仲間事之始」、第39回「白河の清きに住みかね身上半減」が放送されました。第39回では、蔦重が「身上半減」という処分を下されました。
金銭や商品のみならず、畳まで半分取り上げられ、さらに店の看板やのれん、張り紙に至るまで几帳面に半分に裁断されたシーンは、とても印象に残ったのではないでしょうか。
この蔦重に下された「身上半減」の処分は、本当にあった出来事なのでしょうか。そして、ドラマで描かれたように、何もかも半分にされたのでしょうか。
蔦重と京伝は見せしめ?
井上祐貴さんが演じる松平定信(さだのぶ)が主導した寛政の改革下では、出版統制が強化されました。
専門書や学術書を扱う書物問屋仲間には寛政2年(1790)5月に、草双紙(黄表紙など、大衆的な挿絵入り小説本の総称)を扱う地本問屋仲間には同年10月に、出版取締令が発せられています。
これにより、政治への批判や揶揄は認められず、書籍の新規刊行は原則として禁止。どうしても出版したい場合は、奉行所の指図を受けなくてはならず、また、好色本は風俗や秩序を乱すので絶版に。
さらに地本問屋仲間も書物問屋仲間と同じように、「行事(ぎょうじ)」を置いて、書籍の出版前に出版取締令に違反していないかどうか、改(あらため/検閲)を行なうことになりました。
蔦重と、古川雄大さんが演じる山東京伝(さんとうきょうでん/北尾政演[まさのぶ])が摘発されたのは、この取り締まりの効果を上げるための見せしめだったとみられています(今田洋三『江戸の本屋さん』)。
京伝の洒落本はどんな本?
寛政3年(1791)正月、蔦重は山東京伝の洒落本『娼妓絹籭(しょうぎきぬぶるい)』、『錦之裏(にしきのうら)』、『仕懸文庫(しかけぶんこ)』の3冊を出版しました。
洒落本とは、遊郭を舞台に、遊女と遊客の会話を主として書かれた短編小説です。「遊郭の指南書」としての需要もあったようです(田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』)。
山東京伝の3冊の洒落本の内容を次のページで簡単にご紹介しましょう。
