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【べらぼう】蔦重(横浜流星)は「身上半減」で何もかも半分にされたのか? 京伝(古川雄大)が書いた洒落本の内容は?

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鷹橋 忍

『娼妓絹籭』

『娼妓絹籭』は、将棋の定石(じょうせき)を述べた『将棋絹籭』のパロディです。将棋と娼妓(しょうぎ)が取り合わされており、遊郭での男女の駆け引きと、将棋の局面となぞらえています。

舞台は大坂で、近松門左衛門の浄瑠璃『冥途の飛脚』で有名な梅川と忠兵衛が登場します。大坂新町の箕輪の寮にいる梅川という女郎が、「いき」な忠兵衛と逃げるとみえたが夢だったというストーリーですが、読めば、江戸の吉原を描いた作品であることがわかります。

『仕懸文庫』

「仕懸文庫」とは、江戸の深川の仲町で、遊女の衣類を入れて運ぶための箱を指します(田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』)。ですので、本当は深川の遊里を舞台としていますが、表向きの舞台は鎌倉時代の大磯です。

歌舞伎などで演じられる『曾我物語』の登場人物である小林朝比奈、曾我十郎、曾我五郎らが、大磯の廓(くるわ)で遊ぶという内容です(佐藤至子『蔦屋重三郎の時代 狂歌・戯作・浮世絵の12人』)。

この「仕懸文庫」は、ドラマでも描かれたように、「教訓読本」と書かれた袋で書籍が包まれています。

『錦之裏』

後一条天皇(1016~1036)の頃という、藤原道長の時代の設定です。近松門左衛門の浄瑠璃『夕霧阿波鳴渡(ゆうぎりあわのなると)』などで有名な夕霧・伊左衛門を主人公に、朝から夜見世が始まる七ッ時(午後4時頃)までの、客の知らない昼間の遊郭の様子が時系列で描かれています。

吉原の夜は「錦」にも例えられるので、題名通り、その裏の昼の世界を描く趣向です(鈴木俊幸『「蔦重版」の世界 江戸庶民は何に熱狂したか』)。

【べらぼう】蔦重(横浜流星)は「身上半減」で何もかも半分にされたのか? 京伝(古川雄大)が書いた洒落本の内容は?(画像4)

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第39回より ©NHK

身上半減とは?

遊郭を舞台にする洒落本が出版取締令違反とみなされる可能性が高いのは、蔦重も承知していたようですが、行事に見せたところ許可が出たので、出版に踏み切りました。行事は下請けの弱い立場にあり、版元たちの言いなりで動いていたといいます(松木寛『新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』)。

山東京伝の洒落本はよく売れ、蔦重も大いに利益を上げたようですが、取締令に違反したと町奉行所からとがめられ、絶版が言い渡されてしまいます。

津田健次郎さんが演じる曲亭馬琴の『伊波伝毛乃記(いわでものき)』によれば、山東京伝は手鎖50日、蔦重は身上半減の闕所(けっしょ/家屋敷、家財等を官に没収すること)の処分が下されています。

ドラマでは、すべてのものの半分を持っていかれた身上半減ですが、実は具体的にどのような処分であったのかはわかっていません。なお、作者未詳の『山東京伝一代記』では、蔦重の処分を「身上に応じ重過料」としています。

また、出版を許可した行事2人も、江戸の十里四方以内にいることを禁じられる「軽追放」という罪を負わされています。この行事2人に対しては、蔦重も良心がとがめたようで、それ相応の金品を贈ったといいます。

処分を受けても蔦重は立ち止まることなく、次の一手を打ち続けていきます。

【べらぼう】蔦重(横浜流星)は「身上半減」で何もかも半分にされたのか? 京伝(古川雄大)が書いた洒落本の内容は?(画像5)

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第40回より ©NHK

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