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【ばけばけ】寂しい限りだが、これが二人の運命か。トキ(髙石あかり)には“やり直せる未来”が待っている![写真多数]

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田幸和歌子

【ばけばけ】寂しい限りだが、これが二人の運命か。トキ(髙石あかり)には“やり直せる未来”が待っている![写真多数]

「ばけばけ」第17回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

▼前回はこちら▼

>>【ばけばけ】婿の銀二郎(寛一郎)が抱えている思いに、トキ(髙石あかり)は気づけていなさそうだ

完全に〝老害〟としか言いようがないふたりに

運命に縛り付けられる青春とはなんとも切ないものである。

日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・小泉セツをヒロインとした髙石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第4週「フタリ、クラス、シマスカ?」は、ヒロイン・トキ自身の力だけではどうすることもできないもどかしさがほろ苦く描かれた。

闘病の末にこの世を去った傳(堤真一)が経営した織物工場は、実務を受け継いだ三之丞(板垣李光人)の奮闘もむなしく閉鎖となってしまい、トキら女工たちも解雇されることになってしまう。松野家の莫大な借金は、今も返済できていないままで、松野家の「跡取り」として婿に迎えた銀二郎(寛一郎)の苦労や負担もますます増える。

銀二郎は荷運びと彩色の仕事に加え、ひそかに遊郭の客引きも始め、なんとかトキを支えようとする。夫婦、家族のためとはいえ、銀二郎はもとは他人である。それなのにかつての武士の時代を引きずるように、必死であらねばならないのにどこかのほほんとした松野家の面々をよそに最も献身的に働く姿はどこか健気で、なぜそこまでしなければならないのかという気持ちにもなってしまう。

前回も触れたが、銀二郎が昭和の時代などの嫁いびりにめげず健気にがんばる役どころのようで、思わず「がんばれ」という視点で見てしまいそうなつくりである。

そんな銀二郎が、ある日、遊郭の客引きをしているところを義父の司之助(岡部たかし)や義祖父の勘右衛門(小日向文世)に見られ、家の格が下がるととがめられてしまう。家のために、そしてトキのために背に腹は替えられずやっている仕事を、どう見ても「くだらない」理由で否定する古めかしさ。

この武士の時代から〝ご一新〟の時代の転換のばかばかしさは、コンプライアンスなど〝アップデート〟が求められる令和の社会の旧世代の感覚のズレという現代性がうまく重ねられているようだ。

完全に〝老害〟としか言いようがないふたりに、ずっと「いい婿」であった銀二郎も、
「格を気にしとる暇はございません!」
と反論してしまう。いいぞ!と思った矢先に、
「お主が恥をさらして得た金など、松野家にはいらぬ」
と、どこまでも「家」「格」と言う勘右衛門の「古さ」には愕然とした。

もちろん我々以上にショックだったのが銀二郎だろう。帰宅後、トキに遠くの街で二人で暮らそうともちかけるが(妻のトキへの愛情は確かなものであることがわかりほっとする)、「家」と借金に縛られるトキはそれにこたえることはできなかった。

夜が明け、銀二郎はトキへの置手紙を残し松野家から消えた。

銀二郎捜索大作戦のスタートだ

【ばけばけ】寂しい限りだが、これが二人の運命か。トキ(髙石あかり)には“やり直せる未来”が待っている![写真多数](画像2)

「ばけばけ」第17回より(C)NHK

それは仕方ないと思ってしまうが、トキは甘えがあったと自分を責めてしまう。さすがに一大事と思ったか、ある意味元凶である勘右衛門は武士の誇りである刀や鎧を売り、銀二郎の父から聞いた東京に向かうように言う。善人の一面を見せてくれたようであるが、その物言いが「跡継ぎを連れ戻してまいれ」と、どこまでも「家」のプライド重視なところは、もはや笑ってしまう。この笑ってしまうつくりがまた、シリアスに寄りすぎない絶妙なバランスだ。

こうしてトキは1週間以上の日数をかけ、単身東京に降り立つ。銀二郎捜索大作戦のスタートだ。

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「ばけばけ」第18回より(C)NHK

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