【ばけばけ】婿の銀二郎(寛一郎)が抱えている思いに、トキ(髙石あかり)は気づけていなさそうだ
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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>>【ばけばけ】蛇と蛙の阿佐ヶ谷姉妹の掛け合いにクスッ。この脱力感こそ令和の朝ドラか新婚生活はほほえましい空気で
日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表した小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・小泉セツをヒロインとした髙石あかり主演のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』の第3週「ヨーコソ、マツノケヘ。」が放送された。
髙石あかり演ずるヒロインのトキは、史実をもとにしたフィクションとはいえさまざまな運命に翻弄される。父・司之助(岡部たかし)が背負った莫大な借金のために学校を辞めることになったり、そのために遊女街など明らかに「下層階級」エリアとして描き出されている「川向こう」での生活を余儀なくされるなどしてきた。
それでいて司之助や祖父の勘右衛門(小日向文世)は〝ご一新〟による社会の変化に適応しきれず、武士のプライドを捨てられないままだ。ある意味での〝一発逆転〟を狙って婿を取ることとなり、お見合いを重ねた末に銀二郎(寛一郎)と結婚、サブタイトル通り松野家に銀二郎を迎え入れ、いよいよ新婚生活が始まった。
冒頭にも記した通り小泉セツ、このドラマではトキとしての役どころの女性はのちにヘブン(トミー・バストウ)と出会い結婚することはほぼ全ての視聴者が理解しており、銀二郎との結婚生活もやがて終わりがくることも折り込み済みではあろう。しかし、2週にわたり苦労を重ねた末での新婚生活は、銀二郎の「よくできた」キャラクター性も手伝い、好感をもって迎え入れられているような気がする。
そう、銀二郎は素直で働き者、いわゆる〝好青年〟である。父と祖父にとっては「跡取り」として仕込まれるという、昭和の朝ドラやホームドラマでよく描かれた〝嫁いびり〟が、武家社会を引きずるある意味での「老害」による〝婿いびり〟として描かれているのは令和の朝ドラらしさを感じる。
働き者の銀二郎のおかげもあって、どん底のようだった松野家の暮らしも少しずつ明るい兆しが見えてきた。名産品であるしじみ汁をうまそうに口にする銀二郎の姿は司之助や勘右衛門と同じ、そして夫婦仲良く出勤する姿など、その新生活はほほえましい空気を届けてくれる。
貧しいながらも奮闘する松野家と対照的な存在のように描かれてきたのが、親戚である雨清水傳(堤真一)である。〝ご一新〟に合わせて早々に髷を落とし「ザンキリ頭」になったり、縁談も含め、トキに何かと親身になってくれ見守ってくれる存在でもあった。傳はトキが働く機織り工場の社長でもある。ある意味、傳のおかげでなんとかなってきた部分もあったわけだ。
しかしそんな傳の機織り工場の経営が、景気の影響で思わしくなくなってしまう。長男の氏松(安田啓人)が抱えた借金もあり、傳は金策に追われ、変わってこれまで特に期待をされたわけでもなく何もしてこずのほほんと暮らしていたであろう三男の三之丞(板垣李光人)が、突如として社長代理として取り仕切ることとなる。これまで安定した「頼りになる親戚」のような存在だった雨清水家も、気づけば大変な状況に翻弄されていた。
