【ばけばけ】それは明らかに「嫉妬」では!?二人の距離が縮まる様子が自然に楽しい[写真多数]
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節セツをモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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>>まさかのおまえが恋愛展開なのかい!と思わずツッコミながら笑った【ばけばけ】9週[写真多数]「通りすがりのただの異人です」
髙石あかりがヒロインをつとめるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、第10週の放送を迎えた。
この作品が、日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとしたものであることは、誰もが知ることだ。しかし、第10週をむかえても、ハーンにあたる登場人物のヘブン(トミー・バストウ)が、小泉八雲が残した数々の怪談を書くどころか、日本の怪談に深く感銘を受ける描写すらいまだ登場してこない。
怪談そのものに関しては、ヒロインのトキが幼いころから母のフミ(池脇千鶴)に、寝る前に語ってもらうのが大好きだったり、嫌なことがあったら怪談に触れるといった、怪談好きであることは何度も触れられている。史実としても、妻のセツから聞いた怪談をもとにハーンが書き記したわけであるため、トキとハーンの関係性がより深まっていくことで、その場面がいずれ登場することは間違いない。
朝ドラの世界において、万人が知る何かをなしとげた人物がモデルとなっている作品は、しばしば「いつになったらやりはじめるんだろう」「いつその職業になるんだろう」といった展開の速度が気になることがある。しかし本作『ばけばけ』については、そういった感情がまったくといっていいほど出てこない気がするし、気にならないのである。
それは、本作のストーリーはこびと、トキとヘブンをはじめとする登場人物のキャラクター描写のうまさによって作品世界を楽しむことができているということにほかならないのではないか。松野家の面々、ヘブンが英語教師をつとめる高校の面々、花田旅館、そして雨清水家……個性あふれるキャラクターがずらりと脇をかため、テンポのよいかけあいについつい笑っているうちに、気づけば10週を迎えていた。
そんな第10週「トオリ、スガリ。」では、またしても気になるキャラクターにスポットがあたり、ストーリーを引っ張ってくれた。ヘブンの教え子である、小谷(下川恭平)である。
小谷は、ヘブン宅で女中をつとめるトキに一目惚れをする。なんとかトキに気に入ってもらおうといろいろ調べるなか、トキが冒頭で触れたように幼いころからの怪談好きであることを知る。それを教えたトキの幼馴染のサワ(円井わん)が松野家の面々に小谷のことを話し、さらに小谷が旧士族の家系であることがわかると、トキの祖父の〝ラストサムライ〟勘右衛門(小日向文世)も大盛り上がり、松野家ではトキと小谷の関係を深めようという空気がトキそっちのけで進んでいく。
そんなトキたちが日々を過ごす松江にも、現在の日本と同じく冬が訪れていた。この冬は、寒波の影響で特に寒さは厳しいようで、ヘブンは「サムイ、サムイ」と連呼、ついには高校で倒れ、寝込んでしまう。
弱気になり、「ジゴク」と日本(松江)での生活に悪態をつく気力すら失われてしまう。このある種「感じが悪い」ものの、それがどこかにくめないピュアなところもあるヘブンのキャラクターは、前半に書いたようにこのドラマで丁寧に浸透してきたものであるため、「ジゴク」すら言えなくなり、ついには「ワタシ、シス……」と縁起でもないことを口にする姿から、その深刻度が伝わってくる。
「通りすがりのただの異人です」
だから死んでも悲しむな。そんなことを英語で言い、トキを困惑させる。その言葉の奥底には、ヘブン自身まだ気づいていない、トキへの甘えもあるのだろう。
