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【ばけばけ】錦織(吉沢亮)が真実を打ち明けた理由は、「トモダチ」ヘブンを“見守る愛”を貫いた結果だった

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田幸和歌子

【ばけばけ】錦織(吉沢亮)が真実を打ち明けた理由は、「トモダチ」ヘブンを“見守る愛”を貫いた結果だった

「ばけばけ」第94回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

▼前回はこちら▼

>>朝ドラ【ばけばけ】吉沢亮演じる錦織の魅力!物語最大のキーパーソンに迫る。「もし彼がいなければ…」

愛する人を守りたいという想いにブレはない

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、今も世界中に読まれる『怪談』を残したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとした物語である。

第19週となる本週のサブタイトルは、「ワカレル、シマス。」。松江にやってきたハーンは、その後、熊本、神戸、東京へと移り住んでいくわけだが、このドラマのヘブン(トミー・バストウ)とトキ(髙石あかり)も、いよいよ松江と「ワカレル、シマス。」するときがきた。

来日当初から松江の冬が寒くて「ジゴク、ジゴク」と連発していたヘブンではあるが、いつしかすっかり松江を気に入ったものかと思いきや、再び連呼し熊本への移住をトキにもちかける。

史実としては、ハーンは松江を出て熊本の第五高等中学校(のちの熊本大学)の英語教師となるわけだが、その数年後に同じ第五高等中学校で英語教師をつとめたのが夏目漱石である。ここで漱石に教わった学生の中には寺田寅彦などもおり、漱石を主宰とした俳句結社をおこし、熊本の俳壇を引っ張る存在となっていく。ハーンを熊本に呼んだのが、「柔道の父」と呼ばれ、当時第五高等中学校で校長をつとめていた嘉納治五郎である。この時期、熊本に日本の〝知〟が集結したことは、なかなか興味深いことだ。

話をドラマに戻すが、ヘブンの松江を離れる提案を、トキは拒否する。大借金で学校にもまともに通うことができなくなるなど、大変だった思いもたくさんあるだろう松江ではあるが、やはり生まれ育った街への愛着と、大切な家族や友人たちのもとを離れて移り住むことはできないという強い思いがある。家族のため、友人や仲間のために常に本気でぶつかってきたトキの性格からしても、それはとても理解できることだ。

【ばけばけ】錦織(吉沢亮)が真実を打ち明けた理由は、「トモダチ」ヘブンを“見守る愛”を貫いた結果だった(画像2)

「ばけばけ」第95回より(C)NHK

【ばけばけ】錦織(吉沢亮)が真実を打ち明けた理由は、「トモダチ」ヘブンを“見守る愛”を貫いた結果だった(画像3)

「ばけばけ」第92回より(C)NHK

ヘブンは、そんなトキに、両親だけでなく、祖父の勘右衛門(小日向文世)やもう一人の母、タエ(北川景子)などまでまとめて熊本に連れて行くという驚きの提案をする。勘右衛門やタエが前向きに受け入れたことが意外な展開ではあったが、結局勘右衛門は妻のタツ(朝加真由美)と松江に残ると微笑む。それは、みんなで一緒に移り住んだ場合、そこでまた、同じ詮索が発生してしまうのではないかという理由だった。
「熊本もどこも変わらん。一緒におらんほうがええ」

トキはといえば、
「なして私の全てを奪おうとするんですか! 大好きな松江も、大好きな家族も」
と激昂する。

ヘブンが熊本に移り住むことを考えた一番の動機は、言うまでもないが寒くて「ジゴク」というものではない。新聞記事に〝ラシャメン〟疑惑を報じられたことで、一時の加熱したヘイトこそ落ち着いたものの、松江の人たちからの見る目が変わってしまったままで、今なお外出時には顔を隠したりし、ときには過呼吸のようになってしまうこともあるトキを守るためでもあった。

「ワタシタチノコト、ダレモシラナイクマモト、イキマショウ」

自分たちのことを誰も知らない街で暮らそう——。このドラマの根底には、ずっとヘブンとトキの「愛」が流れている。愛する人を守りたいという想い、熊本行きの提案も、その「愛」ゆえということだ。そこにはブレがない。

先に述べた、勘右衛門が松江に残るという理由も、トキ、そしてヘブンに向けた家族愛である。さまざまなかたちで描かれていく愛。「何も起こらない」ドラマとしながらも、何があっても変わることのない普遍の価値観が貫かれている作品、それが『ばけばけ』だ。

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