【渡辺謙さん×柄本佑さん】「佑が見せる表情やセリフの言い方に親父さんのDNAを感じた」”謙さん”が目を細めるその理由
公開日
更新日
恩田貴子
変幻自在の演技で観る者を魅了する柄本佑さん。圧倒的な存在感でスクリーンに深い印象を残す渡辺謙さん。世代も歩んできた道も異なる二人が、映画『木挽町のあだ討ち』で初めて顔を合わせました。「謙さん」「佑」と呼び合う親密な空気の中で語られた、芝居への情熱と飾らない素顔をお届けします。
Profile
渡辺 謙さん 俳優
わたなべ・けん●1959年、新潟県生まれ。
79年、「演劇集団 円」に入団。
87年にNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」に主演し、人気を博す。
2003年公開の映画『ラスト サムライ』以降、海外にも活躍の場を広げる。
近年の出演作に、映画『国宝』、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」他。
Profile
柄本 佑さん 俳優
えもと・たすく●1986年、東京都出身。
2003年、映画『美しい夏キリシマ』で俳優デビュー。
以降、映画、ドラマ、舞台で活躍。
近年の主な出演作に、映画『シン・仮面ライダー』、ドラマ「心の傷を癒すということ」、大河ドラマ「光る君へ」ほか。
公開待機作に、映画『メモリィズ』(6月公開予定)。
「ガンガンぶつかって行け」。その言葉で、役がつかめた気がします
「この作品で受ける一番最初の取材だから、とっても緊張してるんです」
柄本佑さんが、はにかんだような笑みとともに頭をかく。その様子を、渡辺謙さんがやさしい眼差しで見守っている。映画『木挽町のあだ討ち』が初共演となる二人だが、実は柄本さんの父は、渡辺さんと旧知の仲。かつて過酷な撮影現場を支え合った盟友の息子との共演に、渡辺さんは「ふと見せる表情やセリフの言い方に親父さんのDNAを感じて。なんだかうれしかったですね」と、目を細める。
そんな二人が挑んだのが、直木賞、山本周五郎賞をダブル受賞した同名の傑作時代小説を映画化した『木挽町のあだ討ち』だ。原作では若衆・菊之助による仇討ちの顛末(てんまつ)を関係者の証言から明らかにしていくが、映画版ではそのミステリー性を軸に厚みのある群像劇として再構築。作品世界にあらたな奥行きを生み出した。
本作で柄本さんが演じるのは、仇討ちの真相を追う侍・加瀬総一郎。原作では登場が限られていた人物だが、映画では主人公として物語の中心に立ち、核心へと迫っていく。源孝志監督が“刑事コロンボ”にたとえたこの人物像を、柄本さんはある言葉を手がかりに読み解いていった。
柄本 一番最初に撮影した総一郎の登場シーンで、監督に言われたんです。「人混みを歩くとき、普通は人を避けるけど、ガンガンぶつかりながら真っ直ぐ行け」って。なるほど、猪突猛進というわけじゃないけれど、気になることがあったら周りが見えなくなるようなところもある人なのかな、と。その言葉で、総一郎の輪郭がつかめた気がします。
渡辺 彼のような人物は、まさに佑の得意分野だね。
柄本 そんなそんな(笑)。そのうえで、謙さん演じる金治さんをはじめ、個性豊かな方々の中に漂うように存在できたらと思っていたんです。濃さでぶつかるというよりは、こう……。
渡辺 生春巻!
柄本 いいワードをいただきました! ライスペーパーのように(笑)、濃い皆さんを包み込むように存在できたら面白いかな、と思いながら演じていた気がします。
仇討ちの裏で糸を引く立作者(脚本家)・篠田金治を演じた渡辺さんは、映画化が決まる前からの原作ファン。映画化された際には、仇として追われる博徒・作兵衛役を演じたいと、密かに願っていたのだそう。
渡辺 作兵衛、やりたかったんですけどね(笑)。でも源監督が、原作とは違う形で筋立てを考えてくださって。金治は、言ってみれば『七人の侍』で志村喬さんが演じた頭目のような、武ではなく、知をもって制する人物です。加えて彼には、武士の身分を捨てた過去がある。ある意味、俗世から転げ落ちたような感覚で存在したかったので、監督に相談し、髪は坊主頭にさせてもらいました。夏の撮影で、暑くてかつらをかぶりたくない、というよこしまな考えもありましたけど(笑)。
物語の舞台となるのは、芝居小屋「森田座」だ。金治にとっては日常の居場所であり、総一郎にとっては仇討ちの真相を探るために足を踏み入れる、異質な世界。東映京都撮影所の職人たちが手がけた芝居小屋のセットに足を踏み入れた瞬間、二人は江戸の空気を肌で感じたという。
柄本 芝居小屋のセットは、本当にその時代に入り込んだような気持ちになりました。あんなに大きなセットでの芝居は初めてかもしれません。建物の中にもう一つ建物が建っている構造や、細部の作り込みに圧倒されて。すごい現場に立ち会っているんだなと身が引き締まりました。
渡辺 画面に一瞬しか映らないものにまで、驚くほど手間がかけられていてね。「さすが京撮やねぇ」と何度も感服しました。スタッフさんたちは、僕らがふと思いついたアイデアにも的確に応えてくれるんです。その確かな技術には、全幅の信頼を寄せています。
“できなかった自分”を許し、笑顔で日々を過ごしたい
撮影が行われたのは、夏の京都。心身ともにタフさが求められる現場だったはずだが、二人のコンディションの保ち方は対照的だ。
柄本 ルーティンと呼べるものはないんですが、今、趣味でボクシングをやっていまして。疲れているとき、無理やりにでも1時間くらい体を動かすと、むしろ元気になるんです。
渡辺 僕らくらいの歳でそれをやったら、終わっちゃうよ(笑)。
柄本 すみません……(笑)。
渡辺 僕らはもう、だましだましやるしかないの。「あそこが痛いな」とか「しんどいな」とか、そういうものを上手に抱えて、“できなかった自分”を許してあげる。そのほうが、笑顔になれる気がしますね。
