「先生、妻を疑っているんですか?」不可解な眠りの原因は?法医学が暴いたコーヒーの秘密
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ゆうゆうtime編集部
1万体以上の検死・解剖に立ち会ってきた法医学医が見てきた、事件現場の“人間の物語”。一見すると不可解な死も、わずかな手がかりをたどることで、事件の真相が浮かび上がってきます。ノンフィクションでありながら、まるでミステリーのように読み進められる世界。『死体は語りだす』フィリップ・ボクソ著(三笠書房刊)から、一部抜粋してお届けします。第5回は、毒を盛る?女たち——。
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>>実話ミステリー級:犯人を特定したのは“DNA”だった——その最初の事件「先生、妻を疑っているんですか?」
数年前、私をテレビで見たという男性——ここではフランツと呼ぶことにしよう——が、専門家である私の意見を求めたい、と連絡してきた。そして、この連絡を受けた私の秘書が面談の日時を勝手に決めてしまった。
私は困ったことになった、と思った。私が法医学医として誰かに会うのは司直の要請があった場合のみであり、フランツの場合はこれに該当しないからだ。本人にこのことを説明しなくては、と思っていたが、フランツの相談事は私の想定外だった。
「先生にご相談したいと思ったのは、自分はテレビを観ながら寝てしまうからなんです」
私は、こんな素っ頓狂な人物の面談の要請に応じた秘書を心の中で呪いながら、「そうですか、私も同じですよ」と答えた。
するとフランツは私の話を遮り、「いえ、先生は誤解しております。毎晩ではないのです。でも寝込んでしまうと、出勤する時間だから、と妻に起こされるまで泥のように眠り、その後も1日中、気分がすぐれないのです」と述べた。
私はフランツの話に興味をそそられ、姿勢を正した。
彼は素っ頓狂どころか、極めてまともな人物だった。彼は妻のアントワネットと生まれたばかりの子どもとともに、ごくごく普通の新築住宅で暮らしていた。
「そのような症状が出るのはあなただけですか?奥様も同じような症状に苦しんでいますか?」
「いいえ、私だけです」
「そうした症状が出るのは夜だけで、昼間には起きないのですね?」
「おっしゃる通りです」
「吐き気、頭痛、失神、耳鳴り、胃痛といったほかの症状はありませんか?」
ありとあらゆる症状の有無を確認したところ、深い眠り以外には何の症状も存在しないことが分かった。これは、私が知っている毒物のいずれにも該当しない……。
そのとき、問題解決の鍵となる考えが閃いた。
「普段、奥様とあなたは同じものを召し上がっていますか?」
「はい、そうです」
「あなただけが摂取して、奥様が摂取しないものはありますか?」
少し考えたのち、フランツは「あります。コーヒーです。私がテレビを観ているあいだに、妻が私のためにコーヒーを淹れてくれます」と答えた。
これは重要な手がかりだ!
「奥様は、あなたが私に会いに来ることを知っていますか?」
「いいえ、妻には知らせたくなかったのです。バカじゃないか、と思われるのが嫌で」
私は、自分も最初はあなたがバカじゃないかと思いましたよ、と言いたいのをグッと堪えた。
「なぜ、かかりつけの医師に相談しなかったのですか?」
「かかりつけの先生はいないので」
