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朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ

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更新日

田幸和歌子

思いだけではどうにもならないことばかり

朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ(画像6)

「風、薫る」第102回より(C)NHK

ショックを受けつつも、次のチャンスになんとかすがろうと努力をさせてくれ、しかし努力の仕方が分からないとシマケンは戸惑いながら乞うが、
「運でも努力でもない。君の文章は、きわめてどうしようもなく強さがない」
きっぱり言われてしまう。作家を目指す者にとって、これは致命的な指摘である。

「つまり、僕には才能がないってことですね」
突きつけられる現実。シビアではあるが、そういう世界である。シマケンは、りんに出会ったころの思い出話をし、看護の道に進むかどうか迷っていたりんは看護婦として活躍しているが、自分は何も変わらず、ずっと何者でもない人間のままだと卑下したように言う。そんなシマケンに、りんは言った。
「何者でなくたって構いません。私にはただ愛おしいひとです」

その言葉に、「それは僕が言いたかった」とシマケンは言うが、前週の直美のプロポーズのように、りんからのはっきりととした言葉での愛の告白である。

そして、シマケンはこう言った。
「僕と一緒に浜松にきてほしい」

これがシマケンのプロポーズだといっていいだろう。実はシマケンの父が借金を抱えたまま失踪してしまい、浜松の実家が窮地に陥っているから帰ってきてほしいという要請があったのだ。本当に夢をあきらめるときがきた。夢は捨てても、愛のために生きていきたい。シマケンのそんな思いが込められていたのだろう。

朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ(画像7)

「風、薫る」第103回より(C)NHK

朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ(画像8)

「風、薫る」第103回より(C)NHK

しかし、看護婦会や家族のことを考えたりすると今一緒にいくことはできないと、浜松行きを断った。それを聞き、
「僕たちは、一緒に生きていくべきではないと思う。りんさんにはりんさんのやるべきことがある」
と、シマケンは言った。夢も愛も失ってしまった空っぽの状態での決意である。
「私はシマケンさんと一緒に生きていきたいです」
手を握りながらりんは本音を訴えかけるものの、現実の世界では、その思いのままに生きることはできない。

「りんさんの手は大勢の人のためにはたらく素敵な手だ」
その手のぬくもりを感じつつ、「さよなら」とすべてを捨てて別れを告げる。思いだけではどうにもならないことばかりである。りんには実家の事情を告げなかった。知るとなんとかしようとしてしまうからだ。シマケンの優しさであり、夢に生きる人間の綺麗事のようでもある。

シマケンが顔色が悪かったからと派出看護を要請するという直美の粋なはからいのもと、シマケンに最後に事情を聞き思いを伝えようと駆けるりんの前に、具合が悪くなった女性が。その処置に時間がかかっていたのだろうか、シマケンは姿を消していた。果たして二人の再会はあるのか。それぞれの道をどう歩んでいくのか。余韻を残したまま世は動いていく。

朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ(画像9)

「風、薫る」第105回より(C)NHK

ふたたび2年後の世界にもどる。冒頭に記したように、戦争の影が落ちる世界だ。

ナイチンゲールは世界最初の従軍看護婦としてクリミア戦争に参加し、野戦病院で多くの人を看護した。ナイチンゲールの教えを土台として日本初のトレインドナースとなったりんと直美。やがて物語は日清戦争へと突入していく。その戦時下において、看護という視点から戦争をどう描いていくのか。期待とともに待ちたい。

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