山あり谷ありの歌手人生。苦しいときこそ「幸せスイッチ」を切り替えて前へ! 麻倉未稀さんが明るく前向きでいる秘訣とは?
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ゆうゆう編集部
パワフルな歌声と圧倒的な歌唱力で、私たちに元気を届けてくれる麻倉未稀さん。大きな病も経験し、「山あり谷ありの歌手人生です」と言う麻倉さんが、それでも明るく前向きでいられる秘訣とは? 気持ちの切り替え方や、幸せを感じるためのヒントをお聞きしました。
目次
思いがけない「休暇」が自分を見つめ直す機会に
今年の夏、デビュー40周年の記念ライブに臨んだ麻倉未稀さん。新型コロナの影響で、1年遅れの開催となったそうだ。
「待ちに待ったステージなので、本当に楽しかったです。私はやっぱり、歌っているときが一番幸せ」
行動制限とステイホームが長引く中で仕事は減り、キャンセルも相次いだ。歌えない日が続くことは、さぞストレスになったのでは?
「ここ5年くらい、ほぼ休まずにずっと走り続けてきたので、立ち止まって休むのもいいかもしれない、自分を見つめ直す機会になると思いました。不幸を嘆いても、何も解決しないでしょう。答えは1つしかないんですよね。だから早めに切り替えて、前を向いて進むだけです」
その割り切りのよさはどこからくるのだろう。
「もともとの性格かな。山あり谷ありの歌手人生で培われた部分もありますね。やっと這い上がったのに、えっ、また谷なの?みたいな40年だったから(笑)」
辛いときや苦しいときに気持ちを切り替える方法、いってみれば「幸せスイッチ」がいくつかあるという。
「まずは笑顔になること。無理することはないと思いますが、やっぱり笑っていると、前向きになれるんです。『笑う門には福来る』ですね」
そういえば、テレビでお見かけする麻倉さんの笑い声と笑顔は、とてもチャーミングで印象的。元気をもらった人も少なくないはずだ。
「もう1つは、埒があかなくなったら、とりあえず寝ちゃう。目が覚めたらリセットされていて、よし、今日も頑張るぞ!って思えますね」
仕事ではなく日常の中で「歌うこと」も、リラックスしたり、落ち込み気分を高めたりするのに効果的。
「信号待ちしているときや買い物中、流れてくる曲に合わせて無意識に歌っているんですよね、『通りゃんせ』とか『蛍の光』とか。声が大きいらしくて、夫に注意されることも(笑)」
コロナ禍でこんな気づきもあった。
「家で夫と過ごす時間が増えて、こういうのもいいな、幸せだなって、あらためて思いました。夫は私より1つ年下なんですが、ふたりとも若くはないでしょ(笑)。だから、何か特別なことをするわけではなくて、普通にご飯を食べて、ただ一緒にいるだけなんですが」
乳がんと分かったとき 一度だけ夫の前で大泣き
明るくてポジティブで、今は心身ともに充実している麻倉さんだが、公表されているとおり、乳がんサバイバーでもある。
「左乳房にがんが見つかったのは、 2017年の春、テレビ番組の企画で健康診断を受けたのがきっかけです。告知されたときはショックで、さすがの私も平常心ではいられませんでした」
病理検査の結果を待つ時間が、とてつもなく辛かったと振り返る。
「手術になったら入院はどれくらいなのか、すぐ歌えるようになるのか、治療は長く続くのか……。見当もつかないから、頭が整理できなくて」
ああ、もう限界!と思ったとたん、涙が込み上げてきた。
「夫に『1回ちょっと、泣いていい?』と断ってから、声を上げて大泣きしました。いつもの元気で明るい妻とは別人みたいで、びっくりしたと思いますよ。でも存分に泣いた後は『はい、すっきりしました!』 と宣言。夫は『それはよかったです』って(笑)」
その日を境に、もう立ち止まることも思い悩むこともなかったという。
「できる限り早く仕事に復帰して歌う 、それが『1つしかない答え』。そのためだったら、どんなことでも乗り越えられると思えました」
早く歌いたい一心で 半ば強引にスピード復帰
左乳房全摘と同時再建の手術を受けたのが6月22日、その3週間後の7月14日、麻倉さんは手術後初のライブステージに立った。驚異的な復帰の早さが、当時さまざまなメディアで話題になったことは記憶に新しい。
「実は手術前から決まっていたステージで、しかも庄野真代さんとのジョイント・ライブだったんです。ここで復帰することが最初のゴールのように思えて、病気と闘うモチベーションになっていました。でも、今思うと無謀だったかな(笑)」
とはいうものの、この復帰ライブが、新たな発見と嬉しい変化をもたらしてくれた。 「真代さんはじめ、いろんな方たちがフォローしてくださって。物心両面で、手を貸していただきました。 私は甘えるのが下手で、特に仕事となると、何でもひとりで頑張ってしまうタイプ。でも、ときには肩肘張らず、人の好意に甘えるべきだと学びました。そのほうが、物事がスムーズに運ぶこともあるんですね」
もう1つは歌い方。
「いつもどおりに歌うと傷に響いて痛かったので、力を抜いて痛くない呼吸の入れ方を探りながら歌ったんです。そうしたら、前よりも声がよく出るようになって。今まで無駄に力んで歌っていたことに気づきました。定期的に診ていただいているカイロプラクティックの先生も『この歌い方を忘れないように』と。まさしく怪我の功名ですよね(笑)」
手術後3週間、退院からはわずか2週間でのスピード復帰を果たした麻倉さん。限定100 人のファンの前で、テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」の主題歌「ヒーロー」などをアコースティックバージョンで歌い上げた。
乳がんの啓蒙活動も ライフワークの1つに
18年には「ピンクリボンふじさわ」を立ち上げて、乳がんに関する情報や知識、早期発見の大切さを発信している。
「私自身、今も再発予防のためにホルモン治療を続けていて、副作用に悩まされることも。むくみや関節痛、のどの違和感、それに記憶の喪失など、いろいろなことが起こります。個人差もあって、最初はとても不安。でも、だんだん対処法もわかってくるし、副作用だから仕方ないと思えるようにも。患者のひとりとしてのそんな経験も、機会があればお話ししています」
麻倉さんのもとには、さまざまな相談が寄せられるという。
「サバイバーの皆さんとの交流を通して、私も勇気や励ましをいただいています。これからも、活動は地道に続けていきたいと思っています」
2019年、「ピンクリボンふじさわ」のイベントが、藤沢市民まつりと同時開催された。 「専門医のトークショーやワークショップなど、盛りだくさんの内容でした」。右は応援 メンバーの富田京子さん(元プリンセス プリンセス)。
伝統的な仏教音楽に 衝撃を受けて……
節目となるデビュー40周年記念のライブを終えた今、新たに挑戦したいことや目標はあるのだろうか。
「実は今、『声明(しょうみょう)』に挑戦中です……というより、勉強していますという感じかな」
声明とは、仏教の儀式で用いられる声楽曲のこと。「お坊さんのコーラス」といったイメージで、1000年以上の歴史があるそうだ。
「この春、とあるご縁で比叡山延暦寺に行って、念珠作りを体験したんです。ご祈祷もあって、お経を読む前にご住職が唱えたのが声明。何ともいえない豊かで不思議な響きで宇宙のメロディのような。とにかく衝撃を受けました」
もっと知りたい、学びたい。その一心で2カ月後、再び延暦寺へ。
「ご住職に、教えてくださいとお願いしたら『3年かかるよ』って(笑)。 どんなに時間がかかっても、絶対にマスターしたいんです。自分の歌と表現に生かせると思うから」
デビュー45周年の記念ライブで、ぜひ披露をお願いしたい。
「66歳になっていますが、大丈夫かな(笑)。でも、目標があるのは幸せだし、素敵なことですよね。皆さんに聴いていただけるように、頑張ります!」
浅倉さんの幸せ習慣
【気分を変えられる「スイッチ」をもつ 】
笑ってみる、とりあえず寝る、鼻歌を口ずさむ。そんなちょっとしたことが、意外といい気分転換になる。許されれば、思い切り泣くのもアリ。「 思いをすべて吐き出して、自分を解放してあげられるといいかもしれませんね」
【ときには人に甘える 】
復帰ライブを通して学んだことの1つ。「病み上がりの体で頑張りすぎてしまうと、かえって周りに気を使わせてしまいます。今でも基本は私に任せて!という性格ですが、弱い部分を見せて甘えることも、ときには必要かな」
【実現可能な目標をもつ 】
リアルな目標があると、それに向かってぶれずに進める。「この夏のライブで、1つクリアできました。次は『声明』かな。乳がんの治療があと5年続くので、うまくつき合って、無事卒業することも目標ですね」
profile
麻倉未稀
あさくら・みき●歌手
1960年、大阪府生まれ。81年、「ミスティ・トワイライト」でデビュー。「ヒーロー」「What a feeling〜FLASH DANCE」が大ヒット。ポップスにとどまらずジャズ、ゴスペル、ラテン、クラシックまで幅広く歌いこなす。ミュージカル『アニー』などの舞台や、旅番組のレポーターとしても活躍。
『人生はドラマ これからも続く私のヒーロー物語』
デビュー40周年を迎えて、これからも続く歌手人生を振り返り、原点でもあるドラマ主題歌を中心としたカバー集。
KICS-4076 3000円/ キングレコード
※この記事は「ゆうゆう」2022年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。