フランス人から学んだ、お金を使わない心贅沢な暮らし。「ワインが美味しくなるひと手間」を吉村葉子さんに聞く
「おもてなしは、お金よりも真心込めて」というのは、約20年間をフランスで暮らした、エッセイストの吉村葉子さん。著書『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ 本当の贅沢』から、フランスで出会った、お金を使わなくても心贅沢な暮らし方のヒントをご紹介します。ほとんどのワインが美味しくなる、ひと手間の秘密です。
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フランス人から学んだ、お金を使わない心贅沢な暮らし。吉村葉子さんの「自宅でお茶会」
ある日の夕暮れ、窓から差し込む光が、スポットライトのようにテーブルの上にとどまっていました。照らすのは、赤ワインが半分ほど入ったデカンタ。あたりには、アンニュイな静物画のような雰囲気が漂います。
デカンタは、一部の高級なレストランで使われるバカラなんかじゃないほうが私好みです。パリにいたころ、ふらっとひとり出かけた蚤の市で、たまたま目に留まったガラス瓶を購入。それがはじめてのデカンタでした。数百円だったと思います。お店のムッシュに、デカンタと言われてはじめて、そのガラス瓶の呼称を知りました。家に持ち帰り、卵の殻で瓶の内側をていねいに洗ってワインを注ぐと、美しい曲線が際立って、その姿に見とれました。
また、別の日の蚤の市で、持ち上げると壊れそうな木箱に、こう貼り紙がしてあったことがありました。「この箱の中身、全部で50フラン」と。50フランといえば3000円程度だった時代。箱の中身の煤けたデカンタが欲しかったので、お財布から50フラン札を出してお店のマダムに渡しました。そのお店とはご縁があったようで、その後もわが家のワイングラスの多くをそこから買っています。
ワインをデカンタに注ぐことを、フランス語でデカンタージュといいます。ソムリエ試験の最終選考に、デカンタージュの項目があります。高い位置からデカンタの細い口めがけて赤ワインを注ぐデカンタージュは、ソムリエとしての技量の見せどころ。こぼすともったいないので、赤ワインで試す前に水で練習することをおすすめします。習うより慣れろで、ちゃんとできるようになりますよ。