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【雑種タロの実話 後編】愛犬が認知症と診断されて、悲しいというより、なぜかうれしい気持ちになった。「本当に長い間、そばにいてくれてありがとう」

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三浦健太

「できるだけ一緒に、そばにいてあげましょう」
妻がそう提案すると息子が、
「僕、タロと一緒に寝るよ」
とタロの頭をなでながら言いました。
「そうしてあげてくれ。タロも喜ぶだろう」

それから1週間。もう目を開くこともできなくなっていて、息を少しハァ ハァ言わせていることで生きていることがわかるような状態でした。そのタロが急に目を開けました。
「みんな、来てくれ! タロが目を開いたぞ!」

家族がタロの元へ集まり、固唾を飲んで見守りました。タロは久しぶりに声を発しました。小さく小さく「ウ〜」と唸り声を上げています。私は自分の手をさし出しました。

「タロ、かんでいいんだぞ。ほら、私の手だ。さあ、かめ」 タロは口元を私の手にすり寄せ、「クウン」と鳴くと、私の手をかむ......のではなく、なんとペロペロとなめ始めたのです。

「タロが......」

妻も息子もタロの口元へ自分の手を持っていきました。タロは私たちの手をペロペロとなめます。この感触はどれくらいぶりだろうか。家族の誰もが一言も発せず、ただただ懐かしさと優しさにあふれた笑顔でタロを見つめるのでした。そこにいるタロは、ここしばらくの唸るタロではなく、16年前に動物愛護 センターで出会ったとき、そのままのタロでした。タロは懸命に、取りつかれ たように私たちの手をペロペロとなめるのでした。そしてなめるのをやめたとき、その命を閉じました。

タロ。16歳と3カ月の秋の夕方のことでした。

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