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【中島京子さん最新作】乱歩、漱石、安部公房、遠藤周作……、文豪ゆかりの町で風変わりな恋が進行する『坂の中のまち』

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ゆうゆう編集部

“おばあさん像”を新しくつくり直したいと思った

個性豊かな登場人物も本書の魅力だ。なかでも下宿のオーナー・志桜里さんは、元ヒッピー(らしい)のおしゃれな女性。小日向を愛し、その歴史を語らせると氷河期から始まってしまう。このユニークな70代女性を描いた理由は?

「私、おじいさんやおばあさんを書くのが大好きなんです。でも最近、私のイメージの中にある“おばあさん”って、もういないんじゃないか?って気づきました。だって吉永小百合さんが今年80歳ですから! “おばあさん像”を新しくつくり直す必要があるなあ、って」

中島さんの頭に浮かんだのは、40年近く前に出版社で働いていたときの先輩女性編集者たちだった。

「当時40歳前後だった先輩たちは、みんなバリバリにかっこよかったんです。ボブヘアで、服はデザイナーズブランドの黒ずくめ……。彼女たちが今おばあさんになっているなら、どんな感じなのかなと考えたら、志桜里さんになりました」

志桜里さんと真智の祖母との間にはある大きな秘密があるのだが、それは読んでのお楽しみ。

小日向界隈の坂道を歩き、坂の不思議な魅力を楽しむ

坂道といえば、中島さんが直木賞を受賞した『小さいおうち』にも印象深い坂道が登場する。昭和初期、主人公が女中として仕えていた家は、坂の上にあるのだ。

「最近ネットフリックスで再びドラマ化された、向田邦子さん原作の『阿修羅のごとく』を見たのですが、四姉妹の両親の家が坂の上にあるんですね。同居の母が、オリジナル版もそうだったと。ひょっとしたら、『小さいおうち』のイメージの原点はこれかしらと思いました。坂の上に立って見おろす、下から坂を見上げる……。坂には人をひきつけるものがあります」

坂に感じる不思議な魅力。それを知るためにも、本書をガイドブックのように持ちながら、小日向の坂道を歩いてみたくなる。

「ぜひやってみてください。校正の段階で、『中島さんが書いているとおりに歩くと、この場所には着きませんよ』などと細かく確認していただいたので、まちがいはないと思います。街歩きのおともや、文学作品を楽しむヒントにしていただけたらうれしいです」

ちなみに、23区内の坂道の多さ第2位は港区、3位は新宿区だ。

「続編も書けそうですね。渋谷など、再開発で大きく変わる街の坂道にも興味があります」

撮影/川上尚見

PROFILE
中島京子さん

なかじま・きょうこ●1964年東京都生まれ。出版社勤務やアメリカ滞在を経て、2003年小説『FUTON』でデビュー。10年『小さいおうち』で直木賞受賞。泉鏡花文学賞、吉川英治文学賞他、受賞多数。

※この記事は「ゆうゆう」2025年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/神 素子

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