【中島京子さん最新作】乱歩、漱石、安部公房、遠藤周作……、文豪ゆかりの町で風変わりな恋が進行する『坂の中のまち』
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ゆうゆう編集部
大学進学で富山から上京した真智。文学の薫り漂う坂だらけの町で出会う風変わりな人たちは現実なのか、はたまた幽霊か? 中島京子さんの最新作『坂の中のまち』について伺いました。
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中島京子著
亡き祖母の親友・志桜里さんの家に下宿することになった大学生の坂中真智。ある日、好みのルックスをした、かなり個性的な男の子・エイフクさんと知り合うが。文豪ひしめく坂だらけの町での不思議な恋のお話。
文藝春秋 1760円
30年近く暮らした町には文学の足跡がいっぱい
東京には坂が多い。東京都地質調査業協会によると東京23区内の坂道は648。なかでも文京区の坂道は117で堂々のトップだ(※)。中島京子さんは、そんな「坂の中のまち」である文京区小日向・小石川界隈に30年近く暮らしていた。
※東京都地質調査業協会『技術ノート No.39』より
「親が高齢になったこともあり、杉並の実家に転居しましたが、それまでは小日向でした。デビュー作も小石川で書きましたし、人生で一番長く暮らした思い入れのある町です。
この界隈を散歩していると、文学者の記念碑とか案内板などをあちらこちらで見かけます。ここが永井荷風の生誕地だとか、ここは石川啄木が亡くなった場所だとか。あっちでもこっちでも文学者が生まれたり亡くなったり(笑)。そういう場所だからこそ生まれる、町の物語を書きたいと思いました」
富山から上京してきた真智は、亡き祖母の親友・志桜里さんの家で大学生活を始める。そこは坂のてっぺんにある下宿屋。青春&恋愛ストーリーが始まる……かと思いきや、この地に関連する文学作品から抜け出したような、謎の人物たちに翻弄される。フェノロサ(日本美術に貢献した明治期の米国人)の妻らしき女性が下宿を訪れたり、安部公房の小説『鞄』さながらに、坂道を避けて鞄を運ぶ男と出会ったり。見た目が好みの男子・エイフクさんの言動は、まるで昭和初期からタイムスリップしてきたように奇妙……。
「書いていて、ものすごく楽しめた作品です。第2話で登場したエイフクさんは、気づいたら最終話まで活躍するお気に入りのキャラクターに。真智の胸キュンにも貢献してくれました(笑)」
異色なのは第4話。切支丹屋敷にまつわるエピソードは物哀しい。
「2014年に屋敷跡からキリシタンの神父と下働きの夫婦、3体の骨が発掘されました。そのことを調べるうちに、ここが屋敷というより牢獄で、3人は処刑されたのだと知りました。屋敷から一歩も出られず殺された人の胸の内を思いながら書く作業はつらかったですね」