【和田秀樹さん】「終活なんていらない!」好きなことだけやって大往生することがなぜ重要なのか?
年金生活に入る頃から、気になり始めるいわゆる「終活」。いつの間にか増えてしまった大量の持ち物を整理したり、生活を縮小したり、あるいは遺言をしたため、エンディングノートを作ったり。後に遺される人たちの負担をなるべく減らすためにも「立つ鳥跡を濁さず」で、そうした準備は必要だよ、という人がいる一方、いやいやそんなものは不要だよという人も。老年精神科医の和田秀樹さんは後者。なぜ「終活」は要らないのか、その考えを全6回でご紹介します。今回は第1回です。
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和田秀樹さん 精神科医
わだ・ひでき●精神科医。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として35年以上にわたり医療の現場に携わっている。『80歳の壁』『70歳の正解』『逃げ上手は生き方上手』『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』『女80歳の壁』など著書多数。
どうせ死ぬんだから!
人生は理屈どおりにはいかない
35年以上高齢者専門の精神科医として、その医療に携わってきた精神科医の和田秀樹さん。多くの高齢者の現実を目の当たりにしてきた和田さんは「終活」は要らないと考えている。なぜならば、人間の生とはそんなに計算どおりに進むものではないということ、医療も万能ではないことを、多くの事例を見てきて学んだからだ。
「結局どんなに治療をしたって死ぬ人は死ぬし、けっこう不摂生していたって長生きする人は長生きするんです。人生は私たちが考えているほど理屈取りに行くものではないんですよね。私たち医学者は、二つの意味で医療の限界を認めざるを得ない。一つは、人の寿命を延ばしたり、高齢者の健康に寄与したりすることはそんなに簡単ではないということです。もう一つはそうした限界があるにしても、少しでもその状態をよくしたいのであれば、高齢者について大規模比較調査をやればいいのに、やっていないことです」
血圧を下げることが本当に高齢者にとって良いことか?
そうした大規模調査がきちんと行われていないにもかかわらず、世間では、血圧は130を超えたら薬を飲まなければいけないだとか、糖尿病の人についてHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値を6.0以内に抑えろだとかいうことが「定説」のようになっている。
「でも、外国では随分前からHbA1cについては7.0から8.0の緩めな値でコントロールしたほうがいいという話になっているし、一日の食塩摂取量も10~15gの人たちが一番生存率が高いというデータがあるのに、日本では今だに7.5gでやっている。実験して、これぐらいが一番いいよと試すのが科学であるのに、それをやらずに根拠のない数字を高齢者に強いるのは、おかしいのではないかということなんですね。血圧だって本当に下げることが高齢者にとってよいことなのかどうかもわかっていない。もしも下げてよいことがあるとしたら、脳卒中が減るということですね」
しかし、1951年から80年まで日本人の死因のトップであった脳卒中だが、今はみんな血管が丈夫になってきたので、出血型の脳卒中で死ぬ人は、がんで死ぬ人の10分の1となっている。コレステロールを下げることも心筋梗塞にはいい。しかし、心筋梗塞で死ぬ人も、がんで死ぬ人の12分の1でしかないのだと、和田さんは言う。
「であるならば、今、私たちがもっとも考えるべきは、『がんで死なないこと』のほうなわけですよ。それには、まず塩分やコレステロールを下げるよりも、免疫力を上げたほうがいいということなんです」