【べらぼう】蔦重(横浜流星)が出版した「青本」「往来物」とは?
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鷹橋 忍
横浜流星さんが主人公・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/蔦重)を演じる、2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめものがたり)〜」。当時の文化や時代背景、登場人物について、戦国武将や城、水軍などに詳しい作家・鷹橋 忍さんが深掘りし、ドラマを見るのがもっと楽しくなるような記事を隔週でお届けします。今回は、江戸の出版物の種類について取り上げます。
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NHK大河ドラマ『べらぼう』 第17回「乱れ咲き往来の桜」と第18回「歌麿よ、見徳(みるがごとく)は一炊夢(いっすいのゆめ)」が放送されました。
第17回は安永9年(1780年)正月、蔦重が10冊もの新作を出版。蔦重の店・耕書堂に並べられた表紙がもえぎ色の「青本(あおほん)」を目当てに、人々が群がるシーンから始まりました。
『べらぼう』では、青本の他、往来物(おうらいもの)、洒落本(しゃれぼん)、稽古本(けいこぼん)、黄表紙(きびょうし)などたくさんの本の種類が登場しています。馴染みのない言葉なので、どのような本なのか、イメージが湧きにくいのではないでしょうか。今回は、江戸の出版物の種類を取り上げたいと思います。
書物と草紙の違い
江戸時代の本は、「書物」と「草紙(そうし)」の二種類に大別されます。
書物は、神書、仏書、儒書、医学書、歌書などの、宗教や学問、もしくは日本古典に関する書籍を指します。いわゆる堅い印象の本です。
対して草紙は、娯楽的な本となります。浄瑠璃本や役者評判記、浮世絵や、後述する「草双紙(くさぞうし)」、「往来物」などが草紙にあたり、江戸で出版された草紙類を「地本(じほん)」といいます。
本屋は扱う本によって、書物問屋(書物屋)と地本問屋(草紙屋)に基本的には分かれていました。書物問屋と地本問屋は業態が異なり、同業組織も別々となりますが、両方を兼業する本屋も存在しました。
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詳細はコチラ赤本、青本、黒本…時代によって呼び名が変わる草双紙
「草双紙」は草紙の一種で、江戸で生まれた娯楽的な絵入りの読み物です。草双紙は正月に新版が発行され、門松や鏡餅同様に縁起物でした。親がお年玉として、プレゼントすることもあったようです(鈴木俊幸『本の江戸文化講義 蔦屋重三郎と本屋の時代』)。
草双紙の呼び名は、時期により異なります。延宝年間(1673~1681)以降は「赤本(あかほん)」と呼ばれました。表紙は赤く、昔話やおとぎ話をメインとした子ども向けの絵本でした。赤は疱瘡(とうそう/天然痘)の神様が嫌う色なので、表紙の色になったといいます(鈴木俊幸『本の江戸文化講義 蔦屋重三郎と本屋の時代』)。
延享年間(1744~1748)には、「黒本(くろほん)」(表紙が黒)、「青本」(表紙がもえぎ色)と称されています。黒本も青本も、浄瑠璃のあらすじ、軍記物、怪談などを題材としていました(安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』)。
草双紙の歴史は、次に述べる岡山天音さんが演じる恋川春町(こいかわはるまち)の作品により、一変することになります。
当時は青本と呼ばれていた黄表紙
安永4年(1775)、恋川春町は片岡愛之助さんが演じる鱗形屋孫兵衛(うろこがたやまごべえ)のもとで、『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』を刊行しました。以前にドラマでも取り上げられましたね。「金々」とは、「現代風」、「スマート」といった意味です。
『金々先生栄花夢』は、絵入りの大人向けの娯楽小説です。現代でいうと、コミックに近いといいます(田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』)。
『金々先生栄花夢』のあらすじは以下の通りです。
立身出世を夢見て江戸へ向かう金村屋金兵衛(かなむらやきんぴようえ)という若者が、目黒不動の門前の茶屋で注文した粟餅を待っている間に、うたた寝し、夢を見ました。富商の養子に迎えられ、吉原などの遊里で豪遊するも勘当されてしまう、というところで夢から覚め、人生を悟って、元いた村に帰りました。
文学と絵画を合わせた「視覚的文学」(松木寛『新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』)である『金々先生栄花夢』は、大ヒットを飛ばしました。
後世、『金々先生栄花夢』から文化3年(1806)に刊行された式亭三馬(しきていさんば)の『雷太郎強悪(いかずちたろうごうあく)物語』までの草双紙を、便宜上「黄表紙」と称します。黄表紙の呼称は後世につけられたもので、当時は「青本」と呼ばれていました(鈴木俊幸『江戸の本づくし 黄表紙で読む江戸の出版事情』)。