【認知症母との介護生活#35】母との敬老の日。特別な一日も記憶の海に沈んでいく——
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼
>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】孫娘からの敬老祝い
敬老の日を前に
ドラ子から
ランチを ごちそうする
と うれしいLINEがきた
その文中の
老人ふたり ご招待
という言葉は
さすがにちょっと ナンだったけど
まあ 若い子からすれば
60歳も 90歳も
ひと括りか
でも 私としては
あくまで この日の主役は 母
私は付き添い ということで
だって その証拠に
私から 母へのプレゼントだって
準備したし
…って
私は この違いには こだわるよ
当日は 朝から
母の服を 吟味し
母の髪を セットし
バッグと靴も 揃えて
ランチのあとは
久しぶりに デパ地下で
母の好きな 麩饅頭と 蕗味噌を買って
元気があれば
上の売り場も 覗いて
その後
川沿いをドライブして 帰る
娘からの
素敵なプレゼントを メインに
この日を最高の一日に演出するため
私は
そんなアイディアを 練っていた
出かける前の 準備段階では
母も ノリノリ
歌いながら
お化粧したり 着替えたり
車に乗ってからも
窓の外を見ながら
うわあ ちょっと見ない間に
高いビルが たくさん建ってるわねえ
と 声を上げたり
レストランでも デパ地下でも
終始ごきげんだった
私も そんな母を見るのが
うれしかった
ん だ け ど …
その日
レストランでの食事が
母には ボリュームがあり過ぎて
一部を お持ち帰りした
夕食には それを
ふたりで分けて 食べた
食べている 途中
母が 箸を止めて 言った
このステーキ肉
やわらかくて 美味しいわねえ
どこで 買ってきたの?
マンガの4コマ目で 描いたように
母は 出かける前に
何のために出掛けるのかも
忘れていたくらいなので
この お肉の反応も
想定内といえば そうなんだけど
でも
この 特別な一日の記憶が
きれいさっぱり デリートされた現実を
目の当たりにすると
さすがに それは
ちょっとショックだった
ドラ子の 母への気遣いも
私の 今日一日の奮闘も
全部
記憶の海に 沈んでしまった
その夜
いつものように
母の歯磨きの手伝いを した
普通の歯磨きを させたあと
奥歯専用ブラシと 歯間ブラシを使って
追加で 磨かせ
その後 マウスウォッシュを
30秒
仕上げに フッ素を 口に含ませる
歯医者さんに言われたことを
着実に 履行する
そして 最後に
食後に外して 消毒液に浸けさせていた
入れ歯を
洗って 確実に口に入れるのを
見届ける
母の場合 寝ている間に
歯ぎしりで 歯を傷めないように
入れ歯を嵌めて寝るように
言われているので
その 一連の作業をしながら
私は 考えていた
自画自賛するけど
ここまで丁寧な 口腔ケアを
受けてる老人なんて
どんなに高級な老人ホームでも
先ず いないだろう
しかも 同居する娘に
おかあさんって
ホント 恵まれているよね
では
未来の私に
今 お母さんがしてもらっているような
生活を共にして 介護してくれる
私のような存在は
いるだろうか
子どもは ふたりいるけれど
彼らに頼る気は ないし
頼れる とも思っていない
だって
今は そんな時代じゃない
今の若い人たちは 共働きしないと
なかなか 生活が成り立たないし
子どもには 子どもの人生がある
そんな自分は
母より 不幸なのかな
足るを 知る
それは
祖父が よく言っていた言葉
今の日本には
認知症が進んでも
寝たきりになっても
お世話を受けながら
それなりに 暮らす
そういう社会システムが ある
それを 使わせてもらったうえで
気の合う 友だちがいたり
子どもから
時々 元気な声を
聞かせてもらったりすれば
あとは 欲 なんじゃないかな
ひとは
その暮らしの中に
じゅうぶん しあわせを
感じられるんじゃないかな
今の私は
自分の未来を
全然
悲観していない
▼次回はこちら▼
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