介護できるのはラッキー?認知症介護の中の小さな幸せと大きな葛藤【認知症母との介護生活#74】
60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。
母のひと言に今日もタジタジ
伯父が亡くなったのは
ちょうど 1年前
あれから 母と私の間で
伯父さん
今 どこにいるんだっけ
天国だよ
えっ
という会話が
3000回以上 繰り返されている
3000回って
そんな バナナ
さすがに盛り過ぎでしょ
な~んて 感じた方
いや
全然 盛ってないです
夕暮れ時の
ちょっと気だるい時間になると
母は
伯父を思い出すのか
毎日 上記の質問を
してくる
そして 私が
天国だよ と答え
母が えっ と驚く
までが お約束
そして
その会話をした 瞬間から
母の頭の中に入った 私の言葉は
まるで春の雪のように
溶け始め
15秒後
また 同じ質問を繰り返す
それが毎日 少なくとも10回は
繰り返される
とすると
1年で おおよそ3600回
ね?
全然盛ってないでしょ
そして 夏以降
その会話の後に
以前も よく言っていたんだけど
以下の言葉が
100% 続くようになった
あの伯父さんは
お酒も 煙草もやらないし
運動もしていたのに
死んじゃうなんて 信じられない
きっと
老人ホームに 入れられたからよ
そこでは 病気になっても
ほったらかされて
ご飯も ろくに 食べさせて
もらえなかったんじゃないかしら
そもそも
子どもが 3人もいたのに
どうして誰も 一緒に住んで
面倒を見てあげなかったのかしら
自分の親なのに…!
『あのねえ 子どもは みんな
共働きしてるし
それぞれ 家庭の事情があるんだから
だから
介護制度が作られたんじゃない』
因みに
『 』の部分は
私の 心の声です
最初の頃は
その心の声を 口に出して
言うこともあったけど
認知症の人にとって
他人の言葉を 素直に受け入れるのは
普通の人以上に 難しいし
万が一 受け入れたところで
受け入れたことを 忘れるだろうし
ってか それ以前に
自分が愚痴ったことすら
忘れてるし
ってか それ以前の以前に
伯父が亡くなったことすら
覚えていられないんだから
だから
母に 反論したって
その瞬間の 母の気分を
損ねるだけ
ただ
あの日
母は
いつもにも増して しつこかった
伯父がかわいそう だとか
子どもたちが悪い とか
ネチネチと
文句が止まらなくなっていた
ので
私も つい
口が滑った
でもさ おかあさんの兄弟で
子どもに 同居介護
してもらってたひとって
おかあさん以外 一人もいないよ
み~んな
一人暮らしか 老人ホームだよ
娘と住んでる ってだけで
おかあさん
超ラッキーだよ
そして 私は
その言葉の 後に
少し茶化して
娘に 感謝しないとね
と付け加えたかった
けど
さすがに 上から発言だな と
言葉を飲み込んだ
母に 気を遣った
つもりだった
でも
プライド高き 母は
超ラッキー
という言葉に
既に カチンと来ていたのだろう
いきなり 目が座り
唸るような低い声で
…なんで そんな
恩着せがましいこと 言うの
と 絞り出すように言い
親と一緒に暮らせて
うれしい とか
楽しい とか
あなた
そんなふうに思って
暮らしてるんじゃないの?
と 怒気の混じった声で
言葉を続けた
それは
私の想像力の限界を
軽々と突破した 言葉だった
私は
何か 言葉を返そうにも
頭の中に
色々な感情が ぐるぐると渦巻き
その感情を 上手く
言葉に変換させることが できず
金魚のように
ただ 口をパクパクさせていた
唯一
頭の中で 言語化できたのが
最近の母は
例えば「みかん」というような
簡単な言葉すら 出てこないのに
冷凍食品を 冷蔵庫のどこにしまうかも
わからないのに
どうして あんなセリフが
スラスラと出てくる?
そんなことだったのが
笑える
母と一緒に過ごす日々の中で
楽しい
うれしい
と思うことは もちろん ある
母が 生きていてくれて
有り難い
とも 思う
だけど
正直
大変だったり
うんざりすることも あって
何より
私自身が 人生の終着点を
意識する年齢になって
自分の 残された時間の中で
まだまだ
やり足りないことや
あれもしたい これもやっておきたい
といった 思いがある
それが
母がいることで
我慢せざるを得ない時が ある
もっとも
「自分のやりたいこと」
なんて
なに 贅沢言ってるの?
の一言で 片付けられるのが
つい 一昔前までの
戦争を知っている世代の
日本の常識だったんだろう
とも思うけど
だからこその
母の あの言葉なんだろうけど
だけど
あの時
もし 私が
母のあの言葉に 続けて
心の片隅に あって
いつも燻っている
母に 縛られている
という 被害者意識や
やってあげている
という 上から目線の気持ちを
そのまま 伝えてたら
母は
どういう反応をしただろう
怒り出すか
泣くか
それとも
認知症が進んだ今も まだ残っている
誇り高い自意識で
そんなにイヤなら
この家から 出ていっていいわよ
私は 一人で暮らすから
とか
だったら
私がホームに行けば いいんでしょ
あなたに 迷惑かけるつもりは
ないわ
とかって言うのかな
でも
何と言ったところで
今の母には もう
自分の意地を 行動に移す力は
ない
そう
だから
私が 決める
私が 耐えられなくなった時が
おかあさんが
ホームに入る時
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