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「兄とは折り合いが悪かった」映画『兄を持ち運べるサイズに』【原作者・村井理子さん】突然死した兄の身辺整理を記録した理由とは?

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ゆうゆう編集部

突然の死によって始まった、弔いと片づけ。残された家族が集い、過去と向き合いながら、それぞれの関係を見つめ直す数日間を描いたノンフィクション『兄の終(しま)い』。作者の村井理子さんにお話を伺いました。

脳出血で突然死した兄の「後始末」を記録

翻訳家であり人気エッセイストでもある村井理子さん。日常や家族をテーマにしたエッセイは、心地よいリズム&テンポで、シリアスな内容でも、どこか軽やかで、くすっと笑わせる部分もあり、読後はあたたかい気持ちになる。読むと元気になれる、という読者も多い。

『兄の終い』は村井さんの兄の死にまつわるエッセイ(実話)だ。

ある晩、宮城県塩釜警察署からの電話で、兄の突然死を告げられるところから始まる。「ご遺体を引き取りにお越しいただきたい」と言われ呆然とする村井さん。だが数日後、村井さんは宮城県まで出かけていき、兄の元妻と子どもたちとともに兄を荼毘に付し、住んでいたアパート(ゴミ屋敷)を片付け、諸々の手続きを終え、兄を連れ帰る。緊迫感を伴いながらも、村井さんらしい軽妙な文章でつづられる、怒涛の5日間の出来事。

読み始めると一気に引き込まれ、「これは小説?」と思うほどの面白さに、「お兄さんが亡くなった話なのに」と少し申し訳ない気持ちにもなる。最後は涙……。それにしても、このスピード感、臨場感‼

「兄の突然死。自分の人生でもめちゃくちゃ大きな出来事が起きているという、生まれて初めて味わう緊迫感。これを記録に残さなければと、同時進行で記録していったんです。塩釜に向かう新幹線の中で書き始め、『大変なことが起きたので』と、知り合いの編集者さん、作家さんなど限定公開でフェイスブックにどんどんのせていきました。多くの方が見て、アドバイスもくれて。それも事態に立ち向かう力になりました」

文章だけでなく、写真や動画も撮り続けたという。

「何千枚も撮りました。警察署までの道順、アパートを見つけた瞬間、アパートの中、手続きに行った市役所など。一緒に行った伯母には『何で撮るの?』と嫌がられましたが(笑)。時系列で記録し続けたことが、本にするときに役立ちました」

「兄とは折り合いが悪かった」映画『兄を持ち運べるサイズに』【原作者・村井理子さん】突然死した兄の身辺整理を記録した理由とは?(画像2)

撮影/松山勇樹

映画の「家族」4人がそろうシーンに大号泣

村井さんと兄とは、複雑な関係にあった。子どもの頃は仲のよい兄妹だったのに、だんだんと溝が深まり、お金の問題もからみ、兄への怒りの気持ちとともに「もう関わりたくない」と思うまでに。

「兄は二度めの離婚後、長男を連れて宮城県多賀城市に移り住みました。母が末期のすい臓がんを宣告された直後です。それまで母と兄は依存し合って生きていたのに、兄は逃げた、と思いました。当時、私は母から兄の住むアパートの保証人になってくれと言われ、母に号泣されてやむなくなったんです。保証人になったことは私の心の重荷に……。予想どおり、兄が亡くなる少し前にはアパートの管理会社から家賃が滞っているという連絡があり、もう私の人生は終わったと思うくらい追い詰められていた。体調を崩している兄が心配ではあったのですが……助けることはできませんでした」

兄と小学生の息子が暮らしていたアパートの部屋の壁には、元妻との家族旅行の写真、村井さんが幼い頃の家族4人の白黒写真、兄と妹が肩を組んで笑い合う写真が貼ってあったという。

「それを見て、兄の人生の中で、最も幸せだったのは、これだけの時間しかなかったんだな、って。54年の短い生涯、かわいそうなことをした、と思います」

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